内山靖二郎 『クダンの話をしましょうか』 (MF文庫J)

クダンの話をしましょうか (MF文庫J)

クダンの話をしましょうか (MF文庫J)

人面牛身と伝えられることの多いクダンを無愛想で不器用で角を生やしたおにゃのこへと萌え擬人化.日本人の発想力はほんと底なしだ.
クダンとは,は説明しなくてもまあ分かるよね.伝承が諸説あるなかで,予言を終えるとすぐに……という説を下敷きに,作者独自の解釈でストーリーを構築.優しくも切ない,出会いと別れの物語に仕上がっています.
固有名詞に妖怪や怪現象が多く出てくるにも関わらず,伝奇的な色合いはかなり薄い.作者の別シリーズ「神様のおきにいり」は人間と妖怪の共存がテーマのひとつにあるのだけれど,対してこちらは人間と人間とのつながりそれ自体に強く焦点を当てている.人間関係の複雑さやままならなさをやるせなく描いており,ひとことでいって切ない.そんな切ない本編と,そこに挟まれる幕間で描かれるクダンのコミカルな日常のバランスも上手い.決してハッピーエンドとは呼べない,それでいて希望が見える終わり方にも救われる.
というわけで非常に面白かった.前も同じことを書いた記憶があるけど,デビューから本を出すたび着実に面白くなってきているのが素晴らしいと思う.これも続きにぜひ期待したい.