松山剛 『怪獣工場ピギャース!』 (新風舎文庫)

怪獣工場ピギャース! (新風舎文庫 ま)

怪獣工場ピギャース! (新風舎文庫 ま)

敗戦国の住民であり,戦勝国において迫害を受けている怪獣たちの日常と崩壊.
低賃金で重労働を強いられる怪獣は,大きさ 2 〜 3 メートルのイノシシだったりタコだったりイカだったりカブトムシだったり,ひとの意思を持ち人語を操る巨大生物であり一般的な「怪獣」のイメージはさほどなし.被差別階級として,そしてワーキングプアとして描かれる怪獣たちの生活感・閉塞感がじわじわ伝わってくる.タイトルに反して内容は重苦しい.
特筆すべきは影で暗躍する陸軍大佐デモクリトス.彼が狂気を発症するきっかけとその前後のエピソードには鬼気迫るものがあった.悲惨かつ吐き気のするような気持ちの悪いアイデア.序盤からあからさまに怪しい動きを見せるため,ただの小悪党かと思いきや……! ここのシーンだけでも読んだ価値はあったと思った.
回顧シーン調で唐突に登場人物の過去が語られる点や,説明過剰で読みにくい文体など,スムースやスマートからはやや遠い構成など,いくつかの気になる点さえクリアされればひとかどの作家に化けそうな雰囲気はぷんぷんとした.新風舎文庫だけにとどめておくのは勿体無い.同じ賞(新風舎文庫大賞)を受賞した日日日までとはいかないだろうけど,もうちょっとは読まれてもいいはずの作家だと感じたのでした.