紅玉いづき 『雪蟷螂』 (電撃文庫)

雪蟷螂 (電撃文庫)

雪蟷螂 (電撃文庫)

「私はフェルビエ。アルスバントの雪蟷螂。私が心から刃を向けるのは」
その視線を真っ向から受けて、アルテシアは言い放った。
「心から愛した男ひとりだということを」

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雪の山脈に住まう二つの種族,フェルビエ族とミルデ族は長きにわたり争いを続けてきた.その争いに終わりを告げるために先代族長たちが交わした約束は,"蛮族"フェルビエの女族長アルテシアと,"狂人"ミルデの族長オウガとの婚姻だった.その激しい情がため,愛した男を喰らう雪蟷螂と呼ばれる女と,永遠生を信仰する男の,世代を超えた情愛の物語.
第 13 回電撃小説大賞・大賞受賞後のデビュー以来,年一冊のペースで作品を出し続ける紅玉いづきの新作にして,<人喰い物語>の三作目.ライトノベルらしくないと言われ続ける作風にぶれはなく,「喰らいたい」ほどの情愛に身をやつす雪蟷螂を切々と,時に狂おしく描いている.雪の山脈を取り巻く「寒さ」はビジュアル的にも美しく,どころか生活に直結した部分まで無理なく表現されており,体感的に伝わってくるかと錯覚するほど迫真している.生活が描けているからこそ,そこに根付く種族間の戦争,政略結婚の持つ重みが違ってくる.
今回も期待に違わず.素晴らしかった…….惜しむらくは現在の二人と先代の二人,二世代の関係性が少し弱かったことかな.それぞれは良かっただけにせめて上下二分冊くらいのボリュームで関係を描いて欲しかったところではある.一冊で完結させるのはもったいなさすぎた.
それにしてもこのひとのあとがきはいつもいいよなあ.肩肘張らず書くことを楽しんでいるのを読むとなんとなく嬉しくなってしまう.今後も自分のペースで作品を綴ってもらえたら,いちファンとしてこんな嬉しいことはないです.