奥泉光 『神器 軍艦「橿原」殺人事件』 (新潮社)

神器〈上〉―軍艦「橿原」殺人事件

神器〈上〉―軍艦「橿原」殺人事件

神器〈下〉―軍艦「橿原」殺人事件

神器〈下〉―軍艦「橿原」殺人事件

昭和 20 年初頭,ひとりの青年・石目上等水兵が軽巡洋艦「橿原」へと乗艦することになった.艦内にどことなく不気味な雰囲気を覚えた石目は着任早々から様々な噂を耳にする.いわく,橿原の艦底では今まで三人の変死事件があったらしい.いわく,橿原は「なにか」を密かに運んでいたらしい.戦争も終局の影がちらつく中,たった一隻の軍艦に与えられた秘密の任務とは? 艦底の 5 番倉庫に収められているものとは?
笑気と狂気と恐気と笑気と狂以下略ブラックユーモアを書いていたころの筒井康隆をカクテルとか聞いたら読まずにいらりょうかということで読んだ.いやー,最高だった.最高に狂っていて最高に楽しかった.船で戦争で狂気,ってことで個人的に連想したのは『虚航船団』.ユーモラスでクドい文章から綴られる軍艦内の活動や軍規はありきたりの狂気から徐々に逸脱.閉じられているがゆえに生まれる妄想,噂,疑心暗鬼がやがてとんでもない方向にぶっ飛んでいく.狂気の中でそれぞれの口から語られる戦争論・民族論も悪趣味の極みで素晴らしい.狂気に紛らわせて言わせているからまだアレだけどけっこう普通に酷いこと書いてるよな,と思ってぞっとしたりもした.上下巻合わせて約 800 ページとボリュームはあるのだけどまったく退屈しなかった.才能あるひとのブラックユーモアとはこういうもんだ.心ゆくまで味わわせていただきました.