牧野修+田中啓文 『郭公の盤』 (早川書房)

郭公の盤

郭公の盤

回転する板の上に乗せられているように、ぐるぐると世界が回る。噛みしめた奥歯が音を立てて欠けた。その時、男たちが音楽だと言った意味がわかった。たしかにそれはある種の旋律だ。それはどこかで聞いたような、懐かしい旋律だった。だが郷愁というのも違う。それは子供の頃に感じた暗闇への怯えや、両親が自分を捨てていなくなってしまうのではないかと思ったときの不安。思わぬところでぶつけられた悪意のおぞましさ。そういった幼い頃に経験した忌まわしい記憶が塊となった〈歌〉だった。
その旋律が頭の中で形を成す。
──らるう、らるううら、らるう、らるううら

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外山金四郎は,音楽に関するあらゆる仕事を請け負うことを生業にする「音楽探偵」である.ある和歌の朗詠の秘儀を調査するよう依頼を受けた金四郎は,蛭子が流れ着いたという山口県の村に赴く.蛭子を祀る神社に伝わるその和歌を聞いた妊婦は,ことごとく流産したという.やがて金四郎は,皇室に代々伝わるとされる〈郭公の盤〉の存在を知る.それは天地開闢の刻に生まれ,日本を神代の時代に戻す力を持つという…….
天地開闢以来,代々の権力者たちがその存在を追う〈郭公の盤〉の正体とは? 牧野修田中啓文の合作になるトンデモ伝奇いろいろてんこ盛りのホラー小説.ガジェットをにぎやかに見せつつ,得体のしれない不吉さと気持ち悪さを強烈に漂わせながら進む.さすがのふたりだなあと思わせる貫禄があった.そのぶん,〈郭公の盤〉の正体が知れてからが慌ただしかったのはちょっともったいなかった.ラストのキレも,ふたりの合作であることを思うと物足りない.合作として扱うにはかなり難しいネタだと思うから仕方ないといえば仕方ないのかなあ.全体としては好きっちゃ好きだけどね.