海法紀光 『翠星のガルガンティア 少年と巨人』 (ニトロプラスブックス)

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レドは夢を見る。
宇宙という虚空の中に生きる人類と、それを食らいつくそうとするヒディアーズ。人類の唯一の希望であるマシンキャリバー。
命を呈して人類を守るマシンキャリバーの姿に、なぜだか、いつものような涙は流れなかった。それほどの価値は無いように思えたのだ。
マシンキャリバーが嫌いになったわけではない。自分はそれに乗るだろうという確信もある。だが、その光景から胸の熱さと涙は失われていたのだ。多分、永遠に。

「翠星のガルガンティア」アニメ公式サイト

レドがマシンキャリバーのパイロットになるための「最終試験」と「卒業」までを描いた,『翠星のガルガンティア』の前日譚.乾いた冷気のようなものが,物語世界全体を覆っていて,本編とは正反対の空気.第一印象は「敵」のいる『ハーモニー』かなあ.明確な外敵であるヒディアーズはもちろんとして,マザーコンピュータによって最適に管理される人類銀河同盟も「敵」と言えるであろう.「マザーコンピュータに殺される」ことを「分解処理が行われコロニーの資源に還元された」と書いてみせたりだとか,心が冷えるようなことをさらっと書く.古き良きディストピアSFの雰囲気がある.
人類は完成された生物であると捉え(それでチェインバーも人型をしているのだろう),人体改造をタブーとするという思想(宇宙進出しているのに!)だとか,そのなかでのジェンダーとセックスの思想だとか,世界設定やその後(アニメ)につながる部分も非常に面白い.自分たちが社会の資源である(でしかない)ことを当たり前に理解しつつも,しっかり前を向き子どもらしい個性を見せるレドたちがかわいいのだけど,それが後半に進むにつれて……という,ぞわぞわする読み心地.傑作だと思う.ノベライズということと,流通の関係で手に取りにくい一冊になってしまっているかもだけど,ちょっとでも興味があるなら読んでみて損はないと思うよ.