竹宮ゆゆこ 『ゴールデンタイム3 仮面舞踏会』 (電撃文庫)

偶然に小指と小指が触れ合う。電流が走ったのかと思う。あまりの熱さに、万里は一瞬目を閉じた。ぎゅっ、と強く、わずかに数秒。
小指を絡めて、死にかける。
心臓ごと締めつけられたみたいに、胸が異様な速度で高鳴る。
火傷しかけたみたいにすぐに解かれた指の温度が、万里の身体をなお竦ませた。息が苦しくて獣のように何度か喘ぐ。
もう一度、足を踏み出し、両手を上げる。鳴り物のリズムが肌を打つ。
楽しくて、苦しい――『恋愛』の熱が、踊るこの身の目を眩ませる。

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晴れて付き合うことになった多田万里と加賀香子.二人は慎ましくもラブい日々を送っていた.だが万里の足元には踏まないまま目を逸らしていた特大の地雷が,背後には忘れていた一年以上前の自分の姿があった.
キーワードは仮面.あと,言いそびれた言葉は毒を出すようになり,どんどん有害になる,ということ.久しぶりに読んだけどもやはりすごくうまいなあ.服装やアクセサリーの描写のはさみ方とか,擬音や声を使ったテキストとか,ずんずん心揺さぶられる.キャラクターを前面に出している感じがしないぶん,『とらドラ!』より地味なんだけど,より地に足の着いた物語になっていると思う.ひと言で言えば,相手のことを考えて,とっとと行動しろ言葉に出せ! ということだもんな.
それにしても,主人公で語り手でもある多田万里の視点が面白い.一年前の事故で記憶をなくしている多田万里と,すべての記憶を持ちながら,幽霊として誰からも感知されず,互いに干渉できない多田万里が並び立っている,という不思議なこの状況が,どういう意味を持っているのか.この巻のクライマックスはどういうことなのか.しばらく間が空いたけどこれは追いかけるしかあるまい.