片瀬二郎 『サムライ・ポテト』 (NOVAコレクション)

サムライ・ポテト (NOVAコレクション)

サムライ・ポテト (NOVAコレクション)

「ふざけんな!」
怒鳴りつけた。両手の握り拳を振り立てて叫んだ。「ぶん殴ってやるんだ、ぶん殴ってやるって決めたんだよ!」

コメット号漂流記

ハンバーガーショップのマスコットロボット,サムライ・ポテトが自我を手に入れた「サムライ・ポテト」が知ってしまった児童虐待(だと思うけど断言はされない).止まってしまった時間にとり残されてしまった男の話,「00:00:00.01pm」で描かれる狂気.27年ぶりに復活した魔女たちの見たもの「三人の魔女」.冒頭の「復活」の意味がわかるとすごく切なくなる.三津谷くんが趣味で作っていた歩き続けるだけのロボットがテロリストに利用され世界の変革に巻き込まれてゆく様を描く「三津谷くんのマークX.いかにも現代らしいSFだと思う.テロで破壊されたコロニーで生き残った少女と犬のサバイバル「コメット号漂流記」.たったひとりで生き残ってしまったこのシチュエーションで,優生主義と純血主義というブラックな背景を背負いながら,それをさておいて「怒り」を第一の行動の動機にしているのがなんかすごく良い.最後に少しだけ見えた(かもしれない)希望もあって,すごく前向きな作品に思える.
NOVAに掲載された二篇に書き下ろし三篇を加えた作者初の短篇集.なんというか,全体的に人間不信と絶望が根強く底に蔓延っている,気がするのよな.どなたかも同じ感想を書いていたのを見かけた気がするのだけど,読んでると腹の底にあまりよくないどろどろしたものが湧いてくるのが実感できる.それなのに読む手が止められない,みたいな.精神的に引きずるわこれ.個人的に今年の暫定ベストだと思う.