會川昇 『超人幻想 神化三六年』 (ハヤカワ文庫JA)

超人幻想 神化三六年 (ハヤカワ文庫JA)

超人幻想 神化三六年 (ハヤカワ文庫JA)

しかし嘉津馬が記憶していないのは、その不鮮明さゆえではない。むしろその逆だ。彼は昂奮していた。八歳になるかならないかだったが、受像器に映し出されているのが、自分のいる場所から遠く離れた東京での光景であることはわかっていた。そしてそれがどれほど素晴らしい科学技術によるものか、ということも。
そこに映し出されたものは、嘉津馬にとってただの人間ではなかった。それは、超人、だった。
テレビとは、現実とは違う、超人を映し出すものだと、嘉津馬は電撃的に確信した。

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戦後復興に沸く神化三六年.爆発的に視聴者を増やしていたテレビ局でディレクターを務める木更嘉津馬は,自分が担当する人形劇の放送時間中にアクシデントに見舞われる.スタジオで謎の獣に襲われた瞬間,嘉津馬は放送開始の40分前に戻っていた.
10月放映のアニメ『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』の前日譚.オルタネート・ヒストリーにして〈超人〉もの.現実をなぞったもうひとつのテレビの歴史,戦争の影で「綺能秘密法」によって秘匿された〈超人〉たちの歴史,もうひとつの戦争の歴史,もうひとつの戦後史.原理の知れないタイム・リープによって悲惨な歴史を書き換える,というアイデアは今では珍しくないものだけど,いちばん違うのは,歴史を改変すること自体に対する考え方なのかな.なぜ,誰によって時間が戻されるのか,ミステリ風味で進む物語に,なによりも,「もう一つの昭和」という歴史の過渡期の情熱が,飄々としたテキストから強く感じられるのがすごく良い.本編とどれだけつながっていくのかわからないけれど,改変歴史ものとして,何よりエンターテイメントとして非常に完成されていると思う.傑作だと思う.面白かったです.