冲方丁 『テスタメントシュピーゲル 2 上』 (スニーカー文庫)

六十秒――セーフガード車両から防護完了の報告――あの人が行けと言ってくれている――目を開いた。「転送を開封
エメラルドの輝き=一秒余――鋼鉄の四肢/長大な重機関銃/揚力に優れたアゲハチョウの羽――紫の輝きをはためかせて屋上から宙へ。
急降下――脳の血液が移動/視界が暗転/羽の探査で周囲を把握。
MPBの部隊が銃撃戦を行っている建物へ直進せず――現場から死角になるようビル陰を飛翔/側面支援=ドナウ運河の支流。
コンクリートの川縁――ぽっかり空いた地下道――飛び込んだ。
暗闇へ――仲間がいる場所へ――引き寄せられるように。

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公安高機動隊(MSS)の特甲児童,(アゲハ)(ツバメ)(ヒビナ)の側を中心に描かれる,シュピーゲルシリーズ約5年ぶりの新刊.さんざ待たされた(というか出るかどうかわからなかった)だけあって読んでるだけでこみ上げてくるものがある.主人公は少女なんだけど,多士済々に描かれる大人たちのしっかりとした存在感が物語に血肉を与えているのだと思う.憲兵だったり公安だったり捜査官だったり軍人だったり政治家だったりテロリストだったり,そんな大人が何十人もいて,それでもどこに流れ着くのか読めない物語.それを綴るのは,複数の情報が並行して書かれる人工的な文体.アクションも会話もぱっと見では同じ調子なのに,頭に何かが詰め込まれてゆくこの感じはなんなのか.特甲児童たちもそれぞれにカッコ可愛い.特にカタナを託された乙の活躍はかっこ良すぎて頭が痺れた.月末には買えるはずの下巻を正座してお待ちしております(Kindle連載版はダウンロードしてあるんだけどね).