二月公 『声優ラジオのウラオモテ #07 柚日咲めくるは隠しきれない?』 (電撃文庫)

「……わたしも、声優になれるのかな」

呟いた言葉は、本当に思いつきだ。

なんとなくの、深い意味のない独り言。

けれど、それはどうしようもないほどの興奮をもたらし、心臓が凄まじく高鳴る。

世界中のどんなことよりも魅力的に感じた。

声優、柚日咲めくる。ラジオでのトークを主戦場にしてきた彼女だったが、オーディションで本気を出すことができず、声優としての限界を迎えつつあった。

自分も、夢見る少女でいたほうが幸せだったのではないか。

声優への憧れを持ったまま、何も知らずにサイリウムを振っていたほうが。

そうすれば、こんなふうに苦しまずに済んだのに。

「これは声優ファンの少女、藤井杏奈が、声優、柚日咲めくるを認めるまでの物語」。六巻の時系列の裏で起こっていた、柚日咲めくるの葛藤と成長をもうひとつの視点で描いた第七巻。登場時から存在感の強かっためくるちゃんを掘り下げる。声優が好きすぎて、いろいろ面倒くさい声優になっためくるちゃんのいい子っぷりがとても良い。本筋を描きつつ、一方で人間関係の掘り下げも非常にうまくいっていたと思う。内容を凝縮させたイラストもとてもいいですね。ここまでの集大成みたいな巻だったと思いました。



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周藤蓮 『明日の罪人と無人島の教室』 (電撃文庫)

「そう、『明日の罪人』というのは、技術に裏付けられた最も強い孤独の定義だ」

殺されたくないと思わないから、殺す。

盗まれたくないと思わないから、盗む。

価値観からの隔絶。頭で考えても、耳で聞いても、僕たちには実感できない何かがある。社会性からかけ離れた孤立した完成を抱えているから、僕たちは将来絶対に罪を犯す。

現実規程関数によって、現実には限られた可能性しかないが証明されてから十五年。「将来絶対に罪を犯す子供たち」こと12人の《明日の罪人》は、無人島での隔離更生プログラムに参加を強制される。罪なき咎人たちに課せられたのは、一年間の共同生活を通じて、己の将来の潔白を証明すること。

「『理解できない』『理解されない』『共感できない』『共感されない』。孤独の四つの形。それがボクたち。孤独がボクたちを罪へと駆り立てる」

その言葉は、僕の胸にすとんと落ちた。

「現実規定関数」から導き出された《明日の罪人》たちは、共同生活の中で未来の潔白をどのように証明できるのか。あとがきで冗談交じり(?)に「これはSFです」と表明しているけど、一貫して「価値観」を自覚的に描いている(と自分が勝手に思っている)作家が、それをSFを使って描くとこうなるのか、と思わされた。「現実規定関数」という技術が「将来必ず罪を犯す子供」を決めるというとんでもない導入にもしっかりとした意味があり、舞台が近未来(できることは増えているけど技術的に限界がある)であることも、「価値観」の物語を描く上でしっかりとした意味がある。登場人物が15人は居るのに、書き分けやキャラクターづけもくどくない程度にはっきりしていて非常に読みやすい。ものすごく考えぬかれた、最高の導入ではないかと思いました。

夏目純白 『純白と黄金2』 (MF文庫J)

「ヤンキーの実在性を知ることは、己を高みに導くことに繋がる」

「……あ?」

「ヤンキーとは何か。なぜ天は人の上にヤンキーを造ったのか。知りたいと思わないか?」

「研究し続ければ、その天ってやつが教えてくれるのか?」

「答えは、人がヤンキーとして成長していく過程にあると思っている」

ヤンキーの聖地東北から上京した安室レンジ。東京最大のヤンキー都市、猫丘区でオタク生活を満喫していた。

天は人の下に人を造らず、人の上にヤンキーを造った。いろいろなものがぶっ飛んだヤンキー小説の第二巻。単語のチョイス(「ヤンキー猫!?」)といい、淡々としたストーリーテリングから語られるどこかおかしな流れのストーリーといい、全方位的に独特のセンスがある。こう、締めるべきところはもちろん締めてるんだけど、ときどきコントが挟まるというか、コントとそこ以外の区分が良い意味でふんわりしているというか。楽しいのは間違いないけど言語化が難しいんだよな。硬派なヤンキー小説を期待してるとかなーり変なものを読まされることになると思う。ぜひこのまま突っ走ってほしいと思います。

しめさば 『君は僕の後悔(リグレット)3』 (ダッシュエックス文庫)

やめてくれ。

身体が震えた。

彼の……いや、“彼ら”のまっすぐさは、そういうふうに生きられない人間にとっては、暴力的だ。正当性をかなぐり捨てて、自分は間違っているのかもしれないと思いながらも、まっすぐ進んでくる人間を、言葉で糾弾しても、意味がない。無敵の存在だ。

拒絶しても、向かってくるのなら……逃げることしか、できないじゃないか。

夏休みがやってきた。結弦は藍衣や薫たちと高校生らしい夏を満喫していた。そんな中、壮亮の提案で文化祭に向けてバンドを組むことになった。触れたこともないドラムに苦戦しながらも基礎からなんとかものにしていく結弦。その一方、壮亮には思うところがあるようだった。

音楽と言葉と心、その間に共通するもの。恋と対話の物語、第三巻。なんというか、人間関係の距離感の描き方が絶妙で、これぞ「対話」の物語だと感じた。会話での身の引き方・踏み込み方だったり、言葉の交わし方・躱し方がとても自然で、キャラクターたちの存在感が非常に強い。派手な事件が起こらずとも、強く印象に残る、重い物語になっていた。

東崎惟子 『竜殺しのブリュンヒルド』 (電撃文庫)

そう悪い気はしなかった。いや、はっきり言おう。むしろ多幸感に満ちていた。

愛する人の意思を無視して、蹂躙しながら、ひとつになる行為は、

想像を絶するほどに心地よくて、

恐ろしいまでに気持ちよかった。

伝説の島、エデン。島を護る白銀の竜によって、ひとりの幼子が拾われる。竜の血を浴びて生き延びた幼子を、竜は我が娘のように育て、娘も竜を父のように、いやそれ以上に愛した。それから十三年。竜殺しの英雄、シギベルトの襲撃により、竜は殺され、娘は帝国へと奪還される。

親子というのは、そんなにも超常的な心のつながりを有した関係なのか?

神話のような語りから始まる、第28回電撃小説大賞銀賞受賞作。まず竜と楽園の神話があり、人間の手で終わり、そこから新たな神話が始まる、みたいな。そこで語られるのは、「父」と子の間にある愛情と憎悪であったり、そこから生まれる復讐と背徳であったり。あまりに不器用でどろどろとしたものを抱きつつ、まっすぐすぎる愛を描いた、首尾一貫した綺麗な物語でもある。端正なテキストの読み心地も含めて、紅玉いづきと同じ何かを感じた。推薦するのがよくわかる。傑作だったのではないでしょうか。



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