松山剛 『僕の愛したジークフリーデ 第2部 失われし王女の物語』 (電撃文庫)

ああ、それが夢ならば、どんなに良かっただろう。

ベッド脇で、『彼女』を見下ろし、僕は胸が締め付けられる。

ジークフリーデ・クリューガー。

彼女のあるべき場所に、あの逞しくも美しい両腕は、もう肘から下が存在しない。

女王ロザリンデの凶行を止めるため、眼帯の騎士ジークフリーデはその腕を捧げる。ジークフリーデに守られた旅の魔術師オットーは、彼女の治療とリハビリに日々努めていた。義手を手に入れたジークフリーデは、大粛清を再び起こさんとするかつての主にして愛する人に再び立ち向かおうとしていた。

乱世の時代、強い女の掲げる騎士道と、強い女たちの百合が真っ正面からかち合う。第1部との前後編となる、「『二人の少女たち』の物語」。だいぶ圧縮がかかったのか、終盤かなりの駆け足になっている。平仄は合っていると思うのだけど、物語や感情の溜めが少ないぶん、ならではの特徴が薄くなっていた。二冊でしっかりまとまってはいるものの、もっと書ける作家だと思うので、もったいない気持ちのほうが強いかなあ。



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赤城大空 『俺を成り上がらせようとする最強女師匠たちが育成方針を巡って修羅場3』 (ガガガ文庫)

「けどね。それはクロス君に無理矢理変われって言ってるわけじゃないんだ~。相手のことを気遣える優しいクロス君は、相手の嫌がる立ち回りや戦法も十分に察することができるはずだから~。一線を越えるきっかけさえアレば、クロス君はきっと優しいまま“邪法”を使える」

貴族を退けた《無職》の噂は街中に響き渡り、クロスはかつてない世間の注目を浴びていた。折よく今は「喧嘩祭り」の時期。冒険者たちの街特有の祭が盛り上がるなか、クロスは上級貴族からのスカウトを断ってしまう。

従前の予想通り、力では避けられない、人間同士の争いに巻き込まれるクロス君。男の子の意地を見せるの巻。ストーリーは引き続きシンプルで、良くも悪くもわかりやすい。いかにもゲーム的なスキル描写が、クロス君の異様さと素直さを際立たせる方向に効いていた……のかな。

紙城境介 『転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?2』 (MF文庫J)

――これが精霊術学院の級位戦、その本質。

精霊術の優劣を競うのではなく、如何に相手を調べ、分析し、対策するか――

すなわち。

熾烈なまでの、情報戦なのだ。

ジャック・リーバーとして転生し、共に転生した妹との死闘から8年。引き続きフィリーネとともにリーバー家で精霊術に磨きをかけていた。そんなある日、リーバー家に王立精霊術学院のスカウトが現れ、入学試験の招待を受ける。

入学者の九割が脱落すると言われる学院に、全国から集められた神童たち。彼ら彼女らは「級位戦」という蠱毒で振り落とされてゆく。一巻と少し趣を変えて「神童集結編」を謳う第二巻。机を並べる神童――クラスメイトたちの情報を探り、裏をかき、打倒する。いかにもな学園ファンタジーでありながら、派手な魔法や直接の戦いよりも、情報戦と盤外戦術がメインにある。これはファンタジー版「喧嘩稼業」だな? ジャンルが変わったような気もするが、さすが読ませる。一巻で猛威を奮ったヤンデレ妹が、一度も姿を見せず要所で語るだけに抑えているのも、いい感じに不気味さを増長させる。今後に良い意味で悪い予感しかしない。続き楽しみにしています。



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達間涼 『PAY DAY 2 太陽を継ぐ者』 (MF文庫J)

父がブレイズマンだと私が知ったのは、父が死ぬ直前のことだった。

――実は、私がブレイズマンなんだ。

父はいつもと変わらぬ温かな笑みを浮かべ、愛おしそうに私の頭を撫でると、少しだけ寂しそうな顔をしてから、サラサラとした灰になって消えてしまった。

それが父の最期だった。父は普通の人間ではなかったのだと、その時知った。

無敵のヒーロー、ブレイズマンが死んだ。日傘の魔女、アポトーシスも死んだ。残された《フォールド》たちの影によって、街の空気が少しずつ変化していく。一時の平和な日々を過ごしていた春樹の前に、見覚えのある日傘を差した少女が現れる。

これが命です、と男は後に語った。これが死神です、とも語った。

「お見事です、天道陽菜さん。その鎌は貴方にこそ相応しい」

床に転がった男の生首が、そう言った。

「日陰者たちの青春奇譚」第二巻。ブレイズマンの娘はヒーローの継承と復讐を誓い、日傘の魔女の娘もまた、復讐を誓い魔女の後継者となる。「カツアゲ仮面」こと春樹もまた、再び命を賭けた戦いの渦中へと飛び込んでゆく。例えるなら、バットマンとジョーカー亡き後のゴッサムシティを思わせる、ヒーローとヴィランと日陰者たちの物語。

ヒーロー/魔女の二代目は偉大だった父/母の後を継いで、期待に応えようとして、自ら重みを背負いボロボロになってゆく。主人公を含めた年長者たちの言動が、年長者らしいしっかりと落ち着いたものになっており、物語にしっかりとした重みと説得力を与えていたと思う。ヒーローものが好きなら手に取ってみて損はないはず。デビュー作だった一巻から、グっと面白くなっているのは請け負います。



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てにをは 『また殺されてしまったのですね、探偵様』 (MF文庫J)

リリアナは俺が殺されるたびにいつもそばにいて蘇りを待ってくれている。俺の血や、涙や、嘔吐物をなんのためらいもなく受け止めて。

そして生き返った俺に、呆れと嘲りと生真面目さと愛情の混在した声色で言う。

「また殺されてしまったのですね、朔也様」

「……そうみたい」

追月朔也は伝説の名探偵の一人息子。半人前の高校生探偵として、助手のリリテアとともに父の事務所で浮気調査や猫探しといった地味な仕事をこなしていた。ある日、浮気調査のため、乗り込んだ豪華客船で何者かに殺されてしまう。

「本当に、探偵は命がいくつあっても足りない職業だ」。豪華客船、劇場、館と、行く先々で殺人事件に巻き込まれては殺され、生き返り、解決する。なるほど、これが特殊設定ミステリ、なのかな? 探偵が何度も殺されては生き返ることを除けば、ミステリとしてはおそろしく古めかしいのは意図的なものなのかな。ほぼハッタリだけで作られた、土曜21時の日テレのドラマを思い出させるエンターテインメントでした。