縹けいか 『異世界監獄√楽園化計画 ―絶対無罪で指名手配犯の俺と〈属性:人食い〉のハンニバルガール―』 (ダッシュエックス文庫)

「人として生きる以上、調和は大切だ。人間は個体として見れば非常にか弱く、弱肉強食の世界ではとうてい生き抜けない存在――のはずだった。しかし生き抜き、進化をしたのだ。それは人類に“協調性”という、他の動物にはない能力が備わっていたからだ。人間は協力し合わなければならない。社会を形成しなければならない」
「なら、人類を進化させた“協調性”や“社会”が、これから人類を滅ぼすと予言してあげるよ」
「……なるほど、よくわかった。君は天才かもしれないが、とても愚かだ」

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記憶喪失の少年,トウは,気がつくとどこかの闘技場のような場所にいた.ここは様々な世界の凶悪犯罪者を収監した異世界監獄サクラメリス.トウは「史上最悪の指名手配犯」として,ここに囚われることになったのだという.
ここにいるのは人食い少女,殺人鬼,剣豪,聖女,大泥棒.異世界の交差点である監獄に隠されたとある事実について.大罪人の名前を持った異能力だったり,監獄を中心に形成された異世界の街だったり,オーソドックスでありつつ,いろいろと詰め込もうとしているのがなんとなくわかる.根幹に関わる大掛かりなトリックはミステリ的で面白いのだけど,意外とあっさりとすませた感があってちょっともったいない.嫌いではないけど,尖った長いタイトルのわりには印象が薄い作品ではありました.

日日日 『狂乱家族日記 番外そのきゅう』 (ファミ通文庫)

「周りをよう見ぃ――なぁんか、おかしなことになってるねんけど?」
その言葉に嫌な予感をおぼえ、僕は上体を起こし、あらためて周囲を眺めました。
そして絶句します。
僕たちは、見覚えのない、白一色の狭苦しい密室のなかにいました。

賽も人生も投げられた!

アニメDVDの特典小説,Web掲載まとめに,書き下ろしの後日譚を加えた,最後の番外編にして本当の最終巻.凶華と凰火の子供である乱崎十周年(でぃけいど)と死神四番こと小紅のその後を描いた「狂乱家族だった、僕たちへ」が良かったかな.お約束のようにギャグとしっとりとが詰め込まれた,集大成みたいな短篇.全24冊,お疲れ様でした.

冲方丁 『テスタメントシュピーゲル 3 下』 (スニーカー文庫)

あたし達は大丈夫だ――あたし達は、実際のところ何も奪われちゃいない。
何も奪わせやしない/くそったれどもが奪ったと思っているもの全て――取り戻してやれ
このろくでもない地の底を這って――あたし達に何が出来るかどこまでやれるかどんな場所に辿り着けるか――とことん見せつけてやるんだ
まだ保たれているつながり――その全てを力に変えて暗闇を這った。
さあ進め――とことん前へ――泥まみれで這いつくばって進み続けろ

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2016年,ミリオポリス.6人の機械化少女たちの戦いがついに決着を迎える.
オイレンシュピーゲル」,「スプライトシュピーゲル」から始まった物語が10年をかけて,現実の時間を追い越した.シリーズ完結.とうとう6人が揃ったMPBとMSSが戦火に燃える街を駆ける.涼月の「あたし達は大丈夫だ」という言葉が頼もしくて涙が出る.打ちのめされた彼ら彼女ら,それぞれが何かをつかみ取り,未来への道筋を見つける.まさに大団円であり最高のカタルシス.理想的な結末と言えるのではないでしょうか.全員が救われてほしい,とこれほど思える物語もそうそうないと思うし,それをやり遂げた,という.皆も追いかけてみるといい.今からでも遅いということはないさ.

ツカサ 『銃皇無尽のファフニールXIV レインボウ・ピース』 (講談社ラノベ文庫)

私は――本物のドラゴンになれるかもしれない。

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世界を飲み込まんとする第九災厄こと,“終焉”のアンゴルモアがとうとう姿をあらわした.その決戦前夜.
そろそろ区切りが近いであろう,シリーズ第14巻.いつも思うことではあるけど,ハーレム場面とそれ以外の場面の乖離が激しい,というか極まった感がある.決戦前夜のツイスターゲームにそんなにページを割かなくてもいいのよ……みたいな.そしてツイスターゲームの最中に謎の爆発音,シリアスなシーンへ,ってそれはギャグではないのか,という.本筋がなかなか頭に入ってこなかった.そういう意味でもクライマックスが近いのかもしれない.とりあえずあと一冊,見守りたい所存です.

乙野四方字 『正解するマド』 (ハヤカワ文庫JA)

要するに自分は、『正解するカド』のノベライズが書けなくて悩むあまり、頭がおかしくなってしまったのだろう。妙に冷静にその結論にたどり着く。

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テレビアニメ『正解するカド』のノベライズを依頼された作家・乙野四方字は,何を書けばいいのか悩むあまり,精神を病みつつあった.ついに彼はアニメに登場するキャラクター,ヤハクィザシュニナの幻覚を見はじめる.記憶をなくしたというヤハクィザシュニナに,乙野は小説の相談を持ちかける.
テレビアニメ『正解するカド』のスピンアウト小説.物語とは世界であり,世界は物語でできている.最近のSFがずっと考えているテーマを,野崎まどに最大のリスペクトを捧げつつ,小説でなければできない表現でやってのけた.現実と虚構を何重にもミルフィーユにした,極上のメタフィクションだと思う.アニメを見ていなくて申し訳ないというか,各所の感想を読むに先に見ておいたほうが良かったような気もするけどまあいいや(良くはない).傑作ではないかと思います.