周藤蓮 『賭博師は祈らない③』 (電撃文庫)

賭博師は祈らない(3) (電撃文庫)

賭博師は祈らない(3) (電撃文庫)

「ええ。愛です。愛ですとも。いつも、何をしていても、誰かのことが頭の中に浮かぶのなら、それは愛に他なりません」

ラザルスたちは当初の目的地だったバースを訪れた.温泉と賭博を中心に,観光都市として栄えるバースでは,ともに賭博師である儀典長と副儀典長の熾烈な権力争いが水面下で進行していた.温泉から戻ったラザルスは,自分の部屋に放置されていた血まみれの少女を保護するしたことから,権力争いに巻き込まれることになる.

18世紀末のイギリスを舞台にした,賭博師と奴隷少女の物語.イギリスに関するうんちくは相も変わらずで楽しい.住民の性質や階級をポイントに,帝都ロンドンと観光地バースの違いを簡潔に比較したうえで,権力争いの構造を非常にわかりやすく描いている.イギリスオタクの愛が自然に物語に溶け込んで,物語の下地をしっかりしたものにしているという,理想的な組み合わせだと思う.

ゲーム(牌九とハイアンドロー)の緊張感も素晴らしい.帯に謳われている「愛と狂気」を纏ったゲームの緊張感は本物だと思う.「愛と狂気」をロジカルに,それでいて形を失わないよう描いており,そういった話の組み立ては,どことなくミステリっぽい.ような気がする.本当に良い作品だと思います.

東亮太 『異世界妖怪サモナー ~ぜんぶ妖怪のせい~2』 (スニーカー文庫)

異世界妖怪サモナー ~ぜんぶ妖怪のせい~ (2) (角川スニーカー文庫)

異世界妖怪サモナー ~ぜんぶ妖怪のせい~ (2) (角川スニーカー文庫)

「こんにちは、皆さま。クダンでございます」

「うおっ、何かやたらと都合よく現れやがった!」

「はい、やたらと都合よく産まれてまいりました」

召喚した四国の妖怪,手洗鬼が,うっかり魔王を踏み潰してしまう.こうして世界に平和が訪れた.……のだが,なぜかコハクが知らない間に指名手配されてしまう.どうも,コハク以外には召喚できないはずの「妖怪」を名乗る何かが悪さを行っているらしい.

魔王なき後の世界を描く「異世界×妖怪無双」完結編.安直なテーマなようでいて,実際に読んでみるとかなり緻密に伏線を敷いているのがわかるはず.あれも伏線,これも伏線だったのか! と驚くと思う.

本来存在しない世界に現れた「妖怪」と,その影響で生まれてしまった異世界の鬼子である「ヨウカイ」.とても似ているようで相容れないふたつの存在の有り様を,重くならないノリですらすらと綴っている.いつものことですが,何を書かせても上手いひとだなあと改めて思ったのでした.

紫炎 『まのわ 魔物倒す・能力奪う・私強くなる 2』 (このライトノベルがすごい!文庫)

まのわ 魔物倒す・能力奪う・私強くなる 2 (このライトノベルがすごい!文庫)

まのわ 魔物倒す・能力奪う・私強くなる 2 (このライトノベルがすごい!文庫)

「私はね。多分お父さんにもお母さんにも、もう会えないんだと思うんだよ」

ゲームそっくりの異世界に転生した風音と弓花.パーティーに新たなメンバーを加えた一行は,オーガに襲われていた隣国の王女を成り行きから助け出すことに成功.これがきっかけで,隣国の王家を取り巻く陰謀に巻き込まれることになる.

相変わらず命が軽い異世界転生ファンタジー第二巻.狩りまくったモンスターから能力をラーニングしたことによって,すでに最強レベルの力を手に入れているので,いまひとつ緊張感がない.一応それをハンデにしない戦い方を描こうとしている印象はある.しかし焦点を当てるべきところや掘り下げてほしいところがいちいちずれているのは気のせいかなあ.小説ではなくTRPGのリプレイならこれでもいいと思うんだけども.

渡航(Speakeasy) 『クオリディア・コード 3』 (ダッシュエックス文庫)

クオリディア・コード 3 (ダッシュエックス文庫DIGITAL)

クオリディア・コード 3 (ダッシュエックス文庫DIGITAL)

「できることなら、違う体、違う生き方をしてみたかった……。私たちは、子供を残すことができないから」

「その取捨選択を進化と呼ぶのさ」

舞姫とほたる,カナリアを失った防衛都市に,アンノウンの大攻勢が迫る.ほたるから託されたメッセージをヒントに霞はこの世界の真の姿を知り,世界は一瞬にして反転する.

シェアードワールドTVアニメ「クオリディア・コード」ノベライズの完結編.東京,神奈川,千葉の三チームと子供たちだけの狭い世界で完結させるのかと思いきや,すべてが文字通りに「反転」.自分の「世界」のために戦うという原則に立ち返りつつ,ここにきて物語世界が一気に広がるという.とても単純だけどそれ以上に力強い.「正義の反対は別の正義」を鮮やかに見せてくれた.二巻(感想)でほの見せた不穏な空気を継いで,最後の最後に王道のストーリーに至ったと思う.キャラクターだと共依存気味なところを隠さなくなった千種兄妹が良かった.良いシリーズだったと思います.

銅大 『SF飯:宇宙港デルタ3の食糧事情』 (ハヤカワ文庫JA)

SF飯 宇宙港デルタ3の食料事 (ハヤカワ文庫JA)

SF飯 宇宙港デルタ3の食料事 (ハヤカワ文庫JA)

「混ざるんだよ、性欲は。いろんな欲望が。快楽だけじゃなくて、社会的なステータスとか、思想信条とか。その友達のように、人生を語るヤツも出てくる。おれの嫁さんだと、こういう形で性欲を解消することには子供のころから大反対だった。いちど、こっそり行こうとして見つかって、ギャン泣きされてなぁ……」

人類の保護者であった〈太母〉が〈涅槃〉へ旅立ったあとの時代.実家を勘当され,辺境の宇宙港デルタ3へたどり着いた若旦那は,昔の知り合いの少女,コノミに再会する.祖父の遺した食堂を再開させようと頑張るコノミのため,居候をしつつお手伝いをすることになる若旦那であった.

SFあるあるを入れ込んだお仕事小説.「異世界食堂」スペオペ版というのかな.B定食をはじめとした,「食事の味気無さ」の描写に関しては間違いなく随一だと思う.まったく美味くなさそうだけど決して不味いわけでもない,文字通りの味気なさが口の中に浮かんでくる.それを落語のようなテキストで語るという試みは面白い.ただ,それが小説としての面白さにつながっていないかなあ.食い物描写以外は古臭いSF(それもかなり)でしかなく,端々からおっさん臭さがにじみ出ていたのが読んでいて辛かった.