万城目学 『鹿男あをによし』 （幻冬舎）

鹿男あをによし

奈良の女子高に赴任した臨時教員が遭遇した不思議事件の顛末．デビュー作『鴨川ホルモー』に比べると文章がややフラットになっていた．クドさだけでなく森見さんぽさも少し抜けたのかな．
全体を漂う独特の味は逆に強まっていた印象．どこかとぼけたキャラクターのアクの強さは健在で楽しい．ヒロインの堀田が，「野性的魚顔」のくせにじわじわ可愛く思えてくるよう描かれているのが素敵．ベタだけど爽やかなラストも良かった．そらもうひっくり返るしかないわな．
特筆すべきは言葉や小道具のセンスの良さ．話が詰まってきそうな絶妙なタイミングで「野性的魚顔」だの藤原君のかりんとうだのを出されたら．ふっと力が抜けるような，思わず笑っちゃうような，そんな感じ．テキスト自体もさることながら，このタイミングが上手かった．
ただし，中盤以降の"目"をめぐる謎解きは「普通」で少し退屈だったかなぁ．解説や状況説明にも急にテキストに余裕が無くなったように感じた．『鴨川ホルモー』のときも思ったことだけど，なんか日常と謎解きやゲーム的部分がちぐはぐで勿体無い気がするのよなぁ．これだけキャラクターが作れてこれだけの話が書けるのなら一冊分をそちらに注力してもいいんじゃないかという気もする．力があることは間違い無いだけに余計勿体無い．