蜂飼耳 『転身』 (集英社)

転身

転身

仕事先で知り合った女に誘われ,マリモを売るために北の地へ飛んだ女の日々.詩には疎いので作者の名前もはじめて知ったのだけど店頭でぱらぱら見てみたら面白そうだったので買ってみた.帯曰く,「いまもっとも注目を集める詩人の、待望の長篇小説」.
お使い RPG みたいな小説だなあと思った.自分の意思らしきものをほぼ見せない主人公琉々が状況に流れ流され,同じような人々とすれ違いを繰り返すなかで社会の狭さというか輪郭というか,そういうものが少しずつ明らかになっていく過程が,ね.誤解を与えそうな上に実際に読めば捻りの欠片もない表現であることがわかると思うけどさ.
社会とか人間関係なんて狭いサークル.繋がっているようでいてもばらばらで,形があろうとなかろうと生きるだけなら支障はないのだけれど,それでは外の社会からは目を向けてもらえない.ただの藻では見てもらえない,マリモにならなければ認めてもらえない.マリモなんてしょせんは藻の固まりにすぎないのにね.
という書き方だと伝わんねーなと思うけど,ベースからは諦念よりは社会の強かさとかてきとうな人間関係でもわりと平気で生きていけるひとの逞しさが端々から強くにじみ出ていた.いいかげんでもイインダヨー,けっこうどうとでもなるもんだよ,という.なんつーか,頼もしい物語だと思ったのでした.