泉和良 『ヘドロ宇宙モデル』 (講談社BOX)

ヘドロ宇宙モデル (講談社BOX)

ヘドロ宇宙モデル (講談社BOX)

直径 20 センチほどの透明な球の中に宇宙をシミュレーションして見せる「宇宙モデル」.かつて世間で流行していたそれは今ではすっかり廃れてしまっていた.かつて宇宙モデルの開発に関わっていた「僕」も,会社を辞め現在は 31 歳の無職.鬱々とした思いからはじめて自分で作った宇宙モデルを捨てようとしたとき,それを拾うひとりの少女が現れた.
泉和良の商業デビュー三作目.ハードボイルドのような……というと違う気がするけど,そんな感じの願望充足小説,なのかな.ジュンと清水の存在然り,クリエイター(誰か)が生み出した作品(なにか)が本人のあずかり知らないところで他の誰かに影響を与えていること,それが還元されることまた然り.クリエイターとコンシューマーの関係の在り方のひとつを感傷的(感情的?)に描いている.このあたりは『エレGY』を読んだときにも感じたことだけど,私は買って読んで文句つけるだけの人間なのでピンときてない,分かっていない部分があるかも分からないが.清水や元上司のいる現実よりも,ジュンのいる浮世離れした時空に憧れはすれど,主人公と同年代の自分は流石にもうそんなこと夢見ていられない.妙にむず痒くて最初ほんのり甘くやがて苦くて清々しい,当世のおっさんの青春小説なのでした.