ポール・プロイス/小隅黎・久志本克己訳 『天国への門』 (ハヤカワ文庫SF)

天国への門 (ハヤカワ文庫 SF 533)

天国への門 (ハヤカワ文庫 SF 533)

地球外知性からの電波を受信するべく建設されたサイクロプス計画の巨大アンテナ群がついに恒星タウ・ケチからの有意の電波を受信した.研究班は沸き立つが,その通信は 12 年前にブラックホールに飲まれ,消息を絶った宇宙船<アクティス>からの救援信号だった.ニュースを知った数学者のマイケルはブラックホールに関する画期的な仮説を立てる.
うーむ.1980 年刊行(邦訳は 1983 年)とはいえ,同時代で名を残している作家に比べると格段に古くさい.電話交換手のロボット,紅茶のサーモ・パックほか,それらしいアイテムは出てくるんだけど,そこにあるだけといった感じ.イメージが広がらない.ロストフューチャーと都合良く呼べないこともないけどそれにしても…….とすっきりしないまま最後まで読み,訳者(久志本克己)解説まで読んだところで思わずああっと膝を打ち,ようやく深く納得した.

プロイスの方向性ははっきりとしているようだ。プロイスの SF は、“古き良き SF”の復活ではなく、“映像 SF”の文字化なのだ。
スター・ウォーズが出て、“映像 SF”の分野が確立された。これこそプロイスの出てきた背景である。スター・ウォーズがなかったら、こういう形の“映像 SF”の文字化は成立し得なかっただろう。読者が映像のイメージをつかみそこねただろうから。

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B 級 SF 映画を「見たまま」文字化したら確かにこんな感じになるかもしれないなー.四半世紀以上経った現在でも似た事例はあるよな.原作を見たまま忠実に書いた(文字起こしした)結果,小説としてはまったく魅力のなくなったノベライズとかとかとか.ひとは過ちを繰り返すのか…….