田中啓文 『チュウは忠臣蔵のチュウ』 (文藝春秋)

チュウは忠臣蔵のチュウ

チュウは忠臣蔵のチュウ

浅野内匠頭は実は生きていた.田中啓文流解釈による忠臣蔵講談.
田中啓文読むのも何年かぶりだー.作者とタイトルと表紙(とり・みき)からてっきりギャグか SF かと思って手に取ったのだけど,予想に反して硬派な忠臣蔵で驚いた.基本のストーリーは一般に知られる(=私が知ってる)それプラス落語やら巷間で伝わる話やらを踏まえた至極真っ当なもの.いやまあギャグと毒をたっぷり含んで力の抜けるテキストや,それこそとり・みきとか唐沢なをきとかのマンガから抜け出してきたようなキャラクターはコメディと言って差し支えないんだけど.浅野さんと大石さんは落ち着いてひとの話を聞くべき.飲んで吐いて暴れて寝るだけの堀部安兵衛はそのまんま唐沢漫画に出せる.ネクロノミコンや諸世紀が出てくるのはご愛嬌,この作者なら仕方ないけど,主筋に絡むものでなくモブに留まる.お話どおりとはいえ刃傷から仇討ちに至るまでがちと強引すぎることと一部の登場人物の掘り下げが少ないのが気になったかな.硬派を貫いたが故の,かも分からん.暴走と脱線を期待していた身なのでちょっと当てが外れたのだけど,これも忠臣蔵を解釈したバリエーションのひとつということで.