瀬川深 『ミサキラヂオ』 (早川書房)

ミサキラヂオ (想像力の文学)

ミサキラヂオ (想像力の文学)

──夜も更けて参りました、今晩の放送はこれで終了いたします。みなさん、おやすみなさい。二〇五〇年五月十八日午前〇時。こちらはミサキラヂオ、JOZZ3RC-FM、82.8 ヘルツです。

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21 世紀も半ばの時代.片田舎の半島にある小さな町ミサキに,地元の水産加工会社社長が FM ラジオ局を作ったのは,5 年前のことだったかそれとも 3 年前のことだったか.受信する場所によってなぜか放送時間が大きくずれて聴こえたりもする,何の変哲もない変なラジオ局を取り巻くアナクロな人間模様.
〈想像力の文学〉第一回配本にして 2007 年に太宰治賞を受賞した作者の初の長篇作品は,田舎町ミサキの春夏秋冬の出来事を,FM ラジオ局ミサキラヂオとその周辺の人々を中心に描いた群像劇.スライドするようにいつの間にか切り替わっている場面転換と,対してやけに地味な展開に最初ちょっと戸惑ったけども,テンポに慣れてくると登場人物たちが営む普通の日常がちょっとずつ浮かび上がって見えてくる.作中で言う「小さなものがたり」がだんだんと繋がって起伏を大きくしていく,そんな感覚.多くの登場人物たちもそれぞれに魅力的で,音楽教師と録音技師のへんてこなコンビが特にいい味を出していて楽しかった.ただ,21 世紀だからといって何かがそんな大きく変わったわけではない,という姿勢を一貫したのは良かったと思うんだけど,事あるごとに繰り返し強調されるのはちょっと鼻についた.まあ実際そうなんかもしれないけど,そこは言わずもがなというか言わぬが花じゃね,的な.