ロジャー・ゼラズニイ/黒丸尚訳 『地獄に堕ちた者ディルヴィシュ』 (創元SF文庫)

「空腹だ。いつも空腹だ」
「わかっている」
「空腹より強いものが、ひとつだけある。おまえもそれは知っているだろう。さらば」
「さらば」
眼はそむけられた。影の姿は、洞穴のそばから消えた。あとで、ディルヴィシュは、遠くに吼え声を聞いた。そのあとは、静寂。

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妖精族の伝説の戦士ディルヴィシュ.〈闇の者〉ジェレラクの呪いによって地獄に堕とされた英雄が,およそ二世紀の間をおいて甦った.鋼鉄の馬ブラックを駆る彼の目的はただひとつ,己を地獄へ堕とした魔道師に復讐を果たすこと.
ひとりと一頭の復讐の旅を描くファンタジー.これぞヒロイック・ファンタジーというべき王道の物語.似たような響きの固有名詞でごてごてと飾り立てられたテキストは,はじめやたら読みにくいのだけど,だんだんその大仰な格好良さが楽しくなってくる.地の文がそうなのか,訳者ゆえかは判別がつかないけども.復讐に一途であると自分で言うわりに,いわゆる「復讐の鬼」的な向こう見ずさのないディルヴィシュのキャラクターにも妙に親しみが持てる.初ゼラズニイでしたが楽しく読みました.