グレゴリイ・ベンフォード/山高昭訳 『アレフの彼方』 (ハヤカワ文庫SF)

「なあ、おまえは、この何ヵ月かというもの、ほかの話題はほとんど口にしなかったぞ。おまえに、わたしの目を盗む必要があるとは思ってほしくない。それに、母さんは、ひどく心配している」彼はマヌエルの肩を、ぎこちなくたたき、そのしぐさによって二人の間の緊張を緩和させた。それは、ほんの少し以前に、居間の敷物の上でレスリングをやったときのことを、双方に思いださせた。そのときには、二人の肉体的接触にも、今のようなとげとげしさは含まれていなかったのだ。父親は微笑し、濃い口ひげに光が当たった。「子供は誰でも、死ぬことなど考えておらん。だが、両親にはそれほどの確信が持てんのだ」

アレフの彼方 (ハヤカワ文庫 SF (591)) | グレゴリイ・ベンフォード, 山高 昭 |本 | 通販 | Amazon

木星の衛星,ガニメデへの移民を果たした人類.環境改変のためにサーボ化した動物を放ち,過酷で貧しい環境に人々はたくましく生きている.このガニメデには,アレフと呼ばれる,ロボットとも生物ともつかぬ謎の存在がいた.植民地のひとつ,サイドン・セツルメントに住む 13 歳の少年マヌエルはアレフを追うことに躍起になっていた.
ガニメデを舞台に,謎の存在アレフを追う少年と老人,父親との確執,別れ.王道のストーリーを,SF のガジェットに乗せて展開していく.ヒルコ・セツルメントからやってきたイーグルをはじめとしたアイデアのいくつかは面白いけど,さすがに古くなっている感は否めないかな.イーグルの扱いはえらく鬼畜じみてるように思うのだけど,主人公マヌエルはいつの間にかイーグルに感情移入していたらしく,「あれ?」と思った.話は明快なんだけど,そこへ至る感情の流れがときどき分からなくなったというか.