アヴラム・デイヴィッドスン/池央耿訳 『エステルハージ博士の事件簿』 (河出書房新社)

「こちらこそ、突然で申し訳ありません」オドパッカー老は挨拶を返した。「雲の上のお方に恐れおおいことではありますが、大法学者でいらっしゃる先生にお聞きします。年取った女が熊と暮らすというのは、法にかなうことでしょうか?」

熊と暮らす老女

ときは 19 世紀と 20 世紀の変わり目.東欧の小国,スキタイ=パンノニア=トランスバルカニア三重帝国の首府ベラに住まうエンゲルベルト・エステルハージは五つの博士号を持つ博覧強記の大博士.次から次へとやってくる怪事件,エステルハージに暇はない.
架空の国を舞台にした,世界幻想文学大賞受賞の短篇集.三十年間眠り続ける童女「眠れる童女、ポリー・チャームズ」.黄金の指輪を安値で売り歩く男の目的とは,「人類の夢 不老不死」.老皇帝にそっくりなうらぶれた老人「夢幻泡影 その面差しは王に似て」.ルールライとオンディーヌをめぐる物語「真珠の擬母」,ほか八篇.それぞれに異なった味わいもあり,幻想的な雰囲気と気取ったユーモアが両立した短篇ばかりで実に楽しい.