竹宮ゆゆこ 『ゴールデンタイム1 春にしてブラックアウト』 (電撃文庫)

同情するって、こういうことなのだろうか?
ある他人をまるで自分自身のように思い込んで、自分のことのように心を重ねて、寄り添って、負った傷の痛みを自分の痛みみたいに勝手に感じる。これが、同情するということか。だとしたら、同情という気持ちは、随分にエゴイスティックだしヒステリックなものらしい。

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この春から東京の大学に通うことになった多田万里.入学式の日に会ったやなっさんこと柳澤光央と友人となり,そのやなっさんを追って同じ大学に入学した加賀香子に出会う.
大学生たちの不器用でちょっと不思議な春の話.ひとり暮らしでいろいろあったり(色っぽい話でなく),宗教サークルに騙されたり.ストーリー的にはかなり地味な部類に入るはず.しかし,いつの間にか周囲にひとが増えていて,気がつくと目にしている社会が広がっていた,という新大学生の目線を自然に描いていて,非常に読ませてくれる.「完璧なあたし」像に自分を重ねようと,不器用にもどかしく努力する香子.それを見つめる万里.話の中心にいるのはふたりであるのは間違いないけど,それだけではない.テキストも「とらドラ!」からさらに力をつけた感があった.
プロローグ的一冊なので,まだどういう話になるか分からないのだけど,ラストを読んだ感じだと群像劇になっていくのかな.じっくり追いかけていきたいです.