チャールズ・ストロス/金子浩訳 『シンギュラリティ・スカイ』 (ハヤカワ文庫SF)

シンギュラリティ・スカイ (ハヤカワ文庫SF)

シンギュラリティ・スカイ (ハヤカワ文庫SF)

一日戦争が宣戦布告され、ノーヴェ・ペトログラードの丸石畳に電話の雨が降りそそいだ。大気圏突入時の熱で溶けかけている電話もあった。溶けなかった電話は、夜明け直後の冷え込みで、カチカチと音をたてながら急速にさめた。好奇心旺盛な鳩が跳びはねながら寄ってきて、首をかしげ、そうした装置のひとつの、つややかに輝くケースをつつきはじめたが、いきなり呼びだし音が鳴りだしたので、驚いて飛び去った。小さな声が聞こえた。「もしもし、わたしたちを楽しませてくれますか?」

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「わたしたちはフェスティヴァルです」.新共和国辺境の植民星,ロヒャルツ・ワールドに電話機が降りそそいだ.電話から聴こえる声に応じて「楽しいこと」を語れば,どんな願い事でもあっという間に叶えられる.新共和国はこれをフェスティヴァルからの侵攻であると断定.旗艦〈ロード・ヴァネク〉を中心とする艦隊をロヒャルツ・ワールドへ派遣する.
しつこくソヴィエト体制を敷きつづける新共和国が,謎の勢力フェスティヴァルに無謀な戦いを挑む.ポスト・シンギュラリティ時代のスペース・オペラ.楽しいなあ.神の如き存在エシュトンやら因果律兵器やら,ポスト・シンギュラリティ的なカッコいいガジェット,テクノロジーがてんこ盛り.それに対し,古くさい体制が間抜けを繰り返すストーリーはやけにせせこましいというかけちくさいというか.『アッチェレランド』の後半を一冊かけてやったような感じか(ひねりゼロの感想).きちんと分かってやってるので,せせこましさや古くささとのギャップが生きて面白くなっているわけだけど,なんかへたなディストピア小説よりよっぽど未来への夢を砕かれるなぁw