三三珂 『成金』 (メガミ文庫)

成金 (メガミ文庫)

成金 (メガミ文庫)

「あの子はプロレスの、俺たちの夢」

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今は亡きプロレスラー千葉銀の息子,千葉玄.父に憧れ,いつか「銀に成る」ことを目標に鍛錬を重ねる高校生の彼の前に,「まるで狂犬病にでもかかったような」少女が現れる.日下部雪と名乗るその「異常」で「奇怪」な美少女は唐突に玄に闘いを挑んでくる.
第 1 回メガミノベル大賞編集部特別賞受賞作品.導入でちょっと変わったボーイ・ミーツ・ガールかと思いきや,中盤ではプロレス対総合格闘技という格闘技の現在へとシフト,そして後半では伝説の無敗レスラーへの郷愁,プロレス黄金時代への郷愁を,銀の友人だったプロレスラー梶に託して語る.ヒロインもなかなか強烈なキャラ(笑い声は「ぬふふ」,強そうな奴を見つけると涎を垂らしながら襲いかかる)ながら,それが霞むくらい男たちが揃いも揃って格好良いのがポイント.才能はないながら,銀に憧れてまっすぐに鍛錬を重ねる玄,玄を兄のように見守る黒崎,玄の姿を銀に重ねる梶…….門外漢なので作中のオルタネートなプロレス史についてはよく分からんのだけど,死んだ男へのあこがれや郷愁が残された男たちを奮い立たせるという愚直なドラマには,無条件で胸が熱くなる.
「編集部特別賞を設立させた異色作」というのも分かる.ライトノベルレーベルのためか,流れが素直すぎるきらいはあったけど,これは非常に良いものでした.