白倉由美 『ゴーストベイビー』 (講談社)

ゴーストベイビー

ゴーストベイビー

現実だけの人生はつらすぎる。
何故なら、現実という硬い、目に見えないその圧倒的な巨大さに、僕達はどういう姿勢で臨んだらいいのか、それすらもまだわからない程、幼いからだ。十代はいつも不安と隣り合わせだ。僕達にはまだライナスの毛布のようなものが必要なのだ。大人になるまでの、この不安定な季節の間、僕達は現実を跳ね返す、自分だけのストーリーを持たなければならない。そしてゆっくりと大人への階段を、すべり落ちることのないように細心の注意を払いながら、昇っていくのだ。
今、僕の前にはひよ子がいる。僕をみつめている。僕は物語に包まれる。心が温まっていくのを感じる。

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1994 年.高校三年生の野崎耳比古は,両親の海外出張のため,東京の月の裏駅でひとり暮らしを始めることになる.その不思議な一軒家には,双子の少女の幽霊が住んでいた.
双子の幽霊がいる不思議な町の出来事と,双子の少女エクソシストの劇中劇「エクソシストの少女」とが交互に描かれる.モラトリアムの終わりを描いたマジックレアリズム小説,と呼んでいいのかな?(自信なし) 双子の幽霊にそれぞれ恋をする二人の少年,未来のことが書かれる壁新聞,千代田線の核シェルターとクーデター,一本足のソーダ売り,処女懐胎…….さまざまなイメージが幻想的に,掴みどころなく広がっていく.
互いが互いを侵食し合うような二つの奇妙な世界は,ある(誰もが知る)現実の出来事によってぶっつりと断ち切られる.現実がいかに強固なものであるか,という話であると読み取ったのだけど,作者が言いたいのはそういうことではたぶんない.私には読み取れなかったところもある気がするけど,良いものでした.