福永信 『一一一一一』 (河出書房新社)

一一一一一(イチイチイチイチイチ)

一一一一一(イチイチイチイチイチ)

──そこの旅のお方。
「なんでしょうか」
──二の足を踏んでいるね、どうみても、完全に。
「ええ」
──目の前で、道が二つに分かれているのを見て、途方に暮れているのではないか。
「そうですね」
──つまり分岐点で立ち止まっているということになる、いま、ここで。
「じつは、そうなのです」

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語りかける何者かと,それに対する何者かの応答だけでつらつらと綴られる,「再生の物語」.二人称小説と言うのかな? 語りというか対話というか,それだけで形成されていくシーンは,いつの間にか場面が移り変わったり,一瞬でまったく視点が変わってたり.地の文が(ほぼ)ないことが,こんな落ち着かない気分になるとは.文字どおり地に足が着かない感じ.語るということが情報伝達手段としていかに不安定なものか,改めて思い知った心持ち.……作者の意図とはちょっと違うのではないかという気もするけど,面白かったです.