スティーヴ・ハミルトン/越前敏弥訳 『解錠師』 (ハヤカワ・ミステリ)

解錠師〔ハヤカワ・ミステリ1854〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

解錠師〔ハヤカワ・ミステリ1854〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ぼくはいつもと同じことをした。右手の指二本を自分の喉に向けてから、切るしぐさをする。実は、声が出なくてね。ばかにするつもりはないんだよ、と。いまもこうして書いているんだから、どうやら生還できたわけだ。
さあ、きみの準備ができたら、ぼくの物語をはじめよう。その昔、ぼくは“奇跡の少年”だった。やがて、“ミルフォードの声なし”となった。金の卵。若きゴースト。小僧。金庫破り。解錠師(ロック・アーティスト)。どれもぼくのことだ。
でも、きみはマイクと呼んでくれればいい。

Amazon CAPTCHA

子どもの頃の出来事が原因で,一切話をすることが出来なくなってしまった天才金庫破りの少年,マイクルの波乱に満ちた半生記.話ができないこと,鍵開けの才能を持っていることがマイクルに様々な出来事や出会い,別れをもたらす.ハンデを強いられ,辛い思いをいろいろ受けながらも,それを語るマイクルの一人称は非常に生き生きしているのがとても良い.師であるゴーストの「金庫にふれるときは、それを女だと思え。」という教え.「自分の持っていないものがなんなのかをはっきりと悟った」瞬間.そして金庫破りの手に汗握る描写の素晴らしいこと.節目節目での出会いと成長が,なんともキラキラしていてまぶしくて,なによりいちいちワクワクさせられる.
アレックス賞という「ヤングアダルト世代に読ませたい良書」を選ぶ賞を受賞したというのも,なるほどよく分かる.素晴らしい犯罪小説でもあり,同時に素晴らしい青春小説でもある.今年読んだなかでもベスト 3 には間違いなく入る傑作でした.皆も軽い気持ちで手にとってみるといい.