ハリスン&オールディス編/安田均・他訳 『ベストSF 1』 (サンリオSF文庫)


『ベストSF1(ハリイ・ハリスン&ブライアン・W・オールディス編)』 投票ページ | 絶版・レア本を皆さまの投票で復刻 復刊ドットコム

「ここは後期カンブリア紀なんだ。生物は海にかぎられている」
「そんな平和な時期を政治犯の掃き捨て場にするとは、連中も思いやりがありますね。ぼくは弱肉強食の世界じゃないかと心配していました」

ホークスビル収容所

ハリイ・ハリスンブライアン・W・オールディスによって編まれた 1967 年度のベスト SF アンソロジー.突飛なアイデアというものはないのだけど,描写がしっかりした作品が多くて今でもかなり読めるのが良い.ロバート・シルヴァーバーグ「ホークスビル収容所」C・C・シャックルトン「最後の造営」ジョン・T・スラディック「西暦一九三七年!」ジェイムズ・サーバーレミングとの対話」A・バートラム・チャンドラー「左まわりのネジ」フランク・M・ロビンスン「宇宙船ジョン・B号の謎」キース・ローマー「最後の指令」あたりがそんな感じ.プリミティブというか,例えが適当か分からないけど,応用科学に対する基礎科学を読んでるような気分になった.以下個別感想.
ベン・ボーヴァ「十五マイル」.月面で事故を起こした神父を引きずって歩く 15 マイルの道のり.詩的な描写が美しい.
キット・リード「ぶどうの木」.唯一残されたぶどうの木を守ることを運命づけられた一家の最後.不条理ホラーの味.
フレッド・ホイル「恐喝」.ある天才が動物とコミュニケーションを取ることを可能とした.しかし…….これもギャグ含みのホラー,なのかな.画で想像すると笑えるんだけどちょっとお近づきにはなりたくない.
クリス・ネヴィル「ジルの森」.「存在論的ファンタジー」らしいのだけど,一介読んだだけではよく分からなかった.要再読.
J・G・バラード 「下り坂カーレースにみたてたジョン・フィッツジェラルドケネディ暗殺事件」.これはすごかった.全部で 4 ページしかない上にほぼタイトルどおりのことしか書いてないのに,腹にズシンとくるこの余韻はなんなの.
フリッツ・ライバー「電話相談」.罵る老婦人と応対する電話相談サービスのやり取り.なんか妙にしんみり……という言い方はちょっとおかしい気もするけど.気の利いた考え落ちがとても良いと思った.
ゲイリー・ライト「氷の鏡」.氷の経をそりで滑り降りる男たちを描くスポーツ SF.命がけの描写にヒリヒリした.
ブライアン・W・オールディス「紙宇宙船の騎士たち──SF への回顧的展望」は,タイトルどおり,SF の「現在」を書いたエッセイ.SF の定義がどうの,社会や科学技術の発展に対する SF の役割がどうだの,なんか今と言ってることがぜんぜん変わってない気がするよ!?