北野勇作 『かめくん』 (河出文庫)

かめくん (河出文庫)

かめくん (河出文庫)

戦闘というのは、あれによく似ている、とかめくんは思う。前に勤めていた会社であったあの行事。
一年間の記憶を削除してリセットするために実行されるというあの行事。
たしか、忘年会、というのだった。
例えば、あのときの、蟹を食べ終わったあとのテーブルの上。
ちょうど、あんな感じ。

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かめくんは模造亀(レプリカメ).かめくんは自分が本当のカメではないことを知っている.吸収合併により消滅した会社を円満退職したかめくんは,クラゲ荘というアパートに引っ越して新しい生活を始める.
2001 年日本SF大賞受賞作の十数年ぶりの復刊.描かれる日常の風景はどこかのんきで懐かしい,それでいてちょっと寂しくなるようなもの.日常と思索の延長で,かめくんのやっていることは現実なのか,そうではないのか.この戦争とは昔のものなのか,あるいは今まさに戦争をしているのか.だんだんわけが分からなくなってくると同時に,なんとなく,まあそれでいいか,というのんきな気分にもなってくる.『人類は衰退しました』と似通った部分も多いと思うので,わけの分からなさとのんきさのミックスされた空気が好きなひとは読んでみるといいかもしれない.いずれにせよ傑作なので読んでみるといいです.難しいと思うけど,これを機に同じデュアル文庫から出た『ザリガニマン』や『イカ星人』も復刊してくれないものかなあ.