月村了衛 『一刀流無想剣 斬』 (講談社)

一刀流無想剣 斬

一刀流無想剣 斬

神子上典膳は必ず現われる、如何なるときであろうとも、如何なる窮地であろうとも。
谷の向こうにすっくと立った典膳が、黒い長羽織を大きくはためかせるようにして肩に羽織る。
追手を挑発するかのようなけれんであった。

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文禄二年(1593年),下野国藤篠領.家臣の謀反により一族の尽くを殺され,唯一生き残った澪姫.小姓の小弥太とともに龍田織部介に追われ,もはやこれまでかと諦めかけたところに現れたのは,一刀流の達人,神子上典膳であった.
時代劇の皮をかぶってはいるものの,読んでみたらヒーロー小説だった.黒い長羽織を羽織り,一刀流極意『切落』を使いこなす孤高の牢人.己を殺しボロボロになってまで彼は誰のために戦い,何のために救うのか.主人公が謎の男すぎて,行動原理がちらとも読めないのはちょっと気になるところではある.男どもはいずれも良いキャラクターしていて格好いいのだけど,終盤まで不透明なもやもやを抱えることになるのよな.一作目の時代小説(?)だった『機忍兵零牙』(感想)と比べると非常に地味に感じられる,というか比べてはいけないのはわかっちゃいるが.