ホセ・カルロス・ソモザ/宮崎真紀・山田美明訳 『Zig Zag』 (エンターブレイン)

Zig Zag 上巻

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Zig Zag 下巻

Zig Zag 下巻

「諸君、お待たせしたようだが、《プロジェクト・ジグザグ》の参加者がようやく全員揃ったので、説明を始めたいと思う。もったいぶるなと、じりじりしていることと思うが……これだけははっきり申しあげたい。今日ここにいるわれわれは、非常に幸運だ、ということを。これからわれわれは、人類が史上初めて目にするものを目撃することになる。これはけっして誇張ではない。場合によっては、地球が誕生して以来、どんな生物も――いまいきているものもすでに死んだものも――一度として見たことのないものを見るかもしれない……」

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西暦2015年.マドリードの私立大学に勤務する物理学教授エリサ・ロブレドは記憶を封印して生きていた.2005年の夏に,ダビド・ブラネス教授のセコイア理論を実証する《プロジェクト・ジグザグ》に参加したエリサは,そこで生きたイエス・キリストを目撃して以来,ずっと悪夢に襲われ続けていたのだ.
超ひも理論をアレンジした時間ひもとセコイア理論がもたらした恐怖.物理学ミステリ,といえばいいのかな.「原罪」の意味(今まで触れたフィクションでいちばん腑に落ちたかもしれない)や,魂の善悪に関する考え方,それに関連した《ジグザグ》の真相には膝を打った.人物の行動が安直だったり,全体的に軽いのは痛し痒しで,物語に入りやすく逆に没入しにくいという難儀な小説だと思うけど,非常に鋭いアイデアがときどき紛れ込んでいて油断できない.舞台である「2015年」の未来像が恐ろしくセンスなくて導入でまず引っかかったり,退屈なシーンがけっこう長く続くのでダレたりもしたのだけど,ちょっと我慢して読んでみてもいいかもしれない.