- 作者: 仙田学,吉田誠治
- 出版社/メーカー: オークラ出版
- 発売日: 2013/04/23
- メディア: 文庫
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未来はベッドの脇にしゃがむと、兎実さんの頭に手のひらをのせた。目をつぶって顔を寄せると、鼻の穴をふくらませて、深く息を吸いこんだ。ムースのにおいの奥から、汗ばんだ頭皮のにおいが鼻の奥をくすぐる。しぼんでザラメに戻ってしまった綿菓子のような、しなびた甘いにおいだ。そのまま、長くて細い指で、薄い頭皮の表面をゆっくり撫でまわしはじめる。爪をひっかけないように。なにより、起こしてしまわないように。
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――あたしが、毎日磨いてあげるからね。
未来は熱い吐息を吹きかける。誰にも邪魔させない。誰にも知られたくなんてない。あたしが、ふらりんのすべてを、つるつるに磨いて、きれいきれいしてあげる。誰にも、触らせなんてしないんだから。
成績優秀,眉目秀麗,完璧超人を絵に描いたような少女,先斗町未来は超のつく潔癖症だった.未来はあるきっかけから,親友である兎実ふらの頭髪をすべて剃り落としてしまう.
作者の経歴を見ると「第十九回早稲田文学新人賞を「中国の拷問」で受賞」とあって驚く(直近の受賞者は『abさんご』の黒田夏子).ライトノベルと呼ぶにはかなりひねくれた青春小説であり,百合小説でもあり,という.女性の髪を(勝手に)剃ることに込められた意味が非常にぐるぐると,多くの意味を含んだものになっており,率直に言って地の文があまり読みやすくないこともあって,厚さのわりに読むのに時間がかかる.個人的にはピンと来なかったので,しかるべきひとに教えてほしいところではある,かなあ.