吉上亮 『パンツァークラウン フェイセズIII』 (ハヤカワ文庫JA)

「〈黒花〉は〈白奏〉を紛れもなく殺そうとした。明確な殺意を認めた。それこそが重要なことだ。この都市では、あらゆる選択が行動履歴として収集される。そして必要ならば参照され、反映(フィードバック)される。ならば、都市の脅威が溢れ返っている状況があるとして、〈co-HAL〉は都市を守ってきた者たちの行動履歴を参照し、最適な対処法として殺人を許可する。たとえ管理者権限を有していても、存在しない選択を実行させることはできなかった。感謝しよう――俺たちと戦い続けてくれて、俺たちを殺そうとしてくれてありがとな」

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環境管理型インターフェイス〈co-HAL〉により,すべての住人の行動履歴が収集され,常に最適化され続ける〈楽園〉.〈英雄〉に守られ,百万人に百万通りの姿を見せる〈都市〉はどのような終焉を迎えるか.
連続刊行三部作の最終巻.立ち向かう者,〈フェイセズ〉の意味するものがついに明らかにされる.SNSの熱力学的死と都市の死を同列に扱う語りに「おお……」と思ったり(なんとなく思い当たるものがある),消失からの復活を果たす〈黒花〉(ブラックダリア)だったり,心惹かれるエピソードやガジェットはあるのだけど,ストーリーはいまひとつ収束した感じがしない.3ヶ月連続刊行予定が延期になったりとかあったし,普通に詰め込みすぎではないか.もう少しゆったりしたペースで,ひとつひとつを突き詰めてくれればなあ.舞台となるイーヘヴン市はディストピアめいているわりに隙が多くて緊張感に欠け,カタルシスも薄めな気がした.悪い作品ではないけど,いろいろ惜しい.とは言え,熱意は紙面からしっかり感じられるし,作者はまだまだ若い(1989年生)し.これからよな.