宮木あや子 『官能と少女』 (早川書房)

官能と少女

官能と少女

ねえ岸田、手をつないでくれないと、私は迷子になってしまうよ。
雨足は次第に強くなり、ざあざあという雨音は柔らかな檻のごとく、私をひとり、満開の桜の下に置き去りにした。
ひとりきりでは、迷子になることもできなかった。

春眠

「びっくりしてるけど、俺は今までどおり須藤さんが好きだから」
「そんな偽善、いりません」
今までどおりって、何。今までと今の境目はなんなの。

ピンクのうさぎ

収録作品は「コンクパール」「春眠」「光あふれる」「ピンクのうさぎ」「雪の水面」「モンタージュ」の6篇.〈女による女のためのR-18文学賞〉大賞・読者賞受賞作家による官能小説短篇集.ということで主人公は全員女性(境遇はバラバラ),ヘテロとレズはあれどゲイはなし.すべての短篇が美しく,それ以上に痛ましい.セックスという手段を通じて,少女たちはバラバラの幻想を見る,みたいな.幻想を見る手段としてのセックスというか.ひとはセックスを通じて本当に分かり合うことはできるのか……という気持ちにもなる.良かったです.