シギズムンド・クルジジャノフスキイ/秋草俊一郎訳 『未来の回想』 (松籟社)

未来の回想

未来の回想

「まだおわかりになりませんか? そのようですね? もう一度簡潔にやってみましょう。時間とは、時計の振り子のおもりで歯車から歯車へと引きずられていくような秒の連鎖ではないのです。時間とは、お話ししたように、物体に吹きつけてきては、つぎからつぎへと虚無へ運び去り、吹きとばしてしまう秒の風なのです。私はこの風の速度は不揃いだと推定しています。これに対する反論もあるでしょう。そこで、手始めに私は自分と議論してみました(思考とは自分自身との論争にほかなりません)。しかし、時間の流れる時間を、どう測定すればいいのでしょうか。そのためにはリーマンの四座標に五番目の座標の記号tを組みいれ、もうひとつの時間を観察しなくてはなりません。またおわかりにならない?」

Amazon CAPTCHA

子供の頃に時間にとり憑かれ,「時間切断機」を発明した天才,マクシミリアン・シュテルンの生涯を描く.1929年のロシアで書かれた作品の初邦訳,とは思えない,良い意味で読みやすくポップな作品でもある.古びたところがびっくりするほど少ない独自の時間理論はすごく楽しく,「時間を輪になって踊らせてやる」と言い,H・G・ウェルズの『タイム・マシン』を敵視していた少年が,戦争と革命を経て,(もともとおかしかったのが)どんどん狂っていく様はなんか妙に切ない.狂気の天才が出会いや別れを経てなにかを造りあげるまでを描き出す伝記,という意味で,どなたかも言われてたように,マジで80年以上昔に書かれた『ファンタジスタドール イヴ』(感想)だった.『ファンタジスタドール イヴ』を読んで思うところのあったひとは読んでみるといいかもしれない.良いものでした.『瞳孔の中』もポチったので近いうちに読みます.