ジャック・リッチー/小鷹信光編・訳 『ジャック・リッチーのあの手この手』 (ハヤカワ・ミステリ)

わたしはパイプに煙草を詰めた。「わたしだって天才だ」
「うん、でも五十七歳だろ。それに、今までろくになんにもしてないじゃないか」
「天才はなにかをする必要はない」わたしはむっとして言った。「なにかしなければという欲求に駆られるのは、自身のない天才だけだ」
(略)
「ここの学生になって何年なの?」ロニーは訊いた。
「およそ三十五年だ」

学問の道

すべてが初の邦訳となる23篇の日本オリジナル短篇集.初出が1954年から1983年ということで,仕方ないとはいえ今となっては全体的に古さを感じる.ジャック・リッチーのファンなら楽しめると思うのだけど,これが初めて読む本だった自分にはやや退屈だったというのが正直.「ABC連続殺人事件」をはじめとしたミステリは,ミステリのためのミステリという感じが強くてちょっと乗れなかった.素直な青春小説風のリヒテンシュタイン盗塁王と,どこか「星間野球」を思い出させる(順序が逆だが),ただし読み口はぜんぜん違うジェミニ74号でのチェス・ゲーム」が個人的に好みでした.