- 作者: 矢口敦子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/01/25
- メディア: 文庫
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やりたいこと。
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田中さんたちと会ってから、そればかり考えている。
私はなにをやりたいのだろう。
(略)
五十八年も生きて、なにひとつ満足にいかなかった。このまま無為に日々を送っていいのだろうか。
一度は人生を捨てた気でいた。
でも、それでいいのかどうか、迷いはじめている。
いまごろになって軌道修正しようとしても、手遅れだろうか?
札幌に住む大学生,真一のもとに,横浜に住む母,律子が死んだという連絡が入る.最期まで分かり合うことの出来なかった母の突然の死.帰省した真一は母の部屋で,「あいしている/もういちどあいたい/しんじ」という文章を見つける.自分でもなく離婚した父でもない「しんじ」.この文章は,誰に向けて書かれたものだったのだろうか.
50も後半に差し掛かった女性が,死の間際の数年に残した日記から浮かび上がるのは,大きな後悔とほのかな希望.進学や就職に失敗した若いころへの激しい後悔や,離婚して引きこもり続けた数年の鬱々とした気持ちを,同年代の女性が日記を読み進めるという形式で綴る.カバーには「母と子の物語」とあるのだけど,女と女,女と男の物語でもある.日記の読み手の人生と重なっていく.苦痛と後悔が大半を占め,結末も分かっている独白は読んでいて非常にきついものがあるのだけど,目が離せなくなる.辛い物語ではあるのだけれど,同世代のひとの感想を聞いてみたくなりますね.良かったです.