ロバート・クーヴァー/越川芳明訳 『ユニヴァーサル野球協会』 (白水社)

ユニヴァーサル野球協会 (白水Uブックス)

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こうして、ようやくヘンリーは野球ゲームに辿りついたのだった。ほんとにこのゲームくらい面白いものはない。実際の試合だってこれほど面白くはない――実をいうと、実際の野球はヘンリーにとって退屈なだけだった。面白いのは、むしろ記録や統計であり、選手個人と球団、攻撃と守備、作戦と運、偶然と規則性、体力と知力などといったもののあいだにある奇妙なバランスだった。しかも、この世においてこれほど明確で、ひとつにまとまった歴史と特異な価値観を持ちながら、不思議なことに究極的な神秘性まで兼ね備えているゲームは他にはない。

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会計士のヘンリーは,自分で考案した野球ゲームに没頭していた.詳細なルールとサイコロによって駆動される架空の野球リーグに心血を注いでいたヘンリーだったが,ゲームの中で起こったある大事件によって,幸せな日々は変化し,現実と虚構の境目は壊れてゆく.
新潮文庫で出版された野球小説(?)の復刻.50代のおっさんが部屋で一人遊びしているだけなのになんでこんなに楽しそうなんだ……と思いながら読み始めると,物語はどんどん不穏になり,現実と虚構の境目は曖昧になり,野球という儀式の誕生と現代の神話創造に立ち会うことになるという.タイトルと評判だけ聞いてて今回はじめて読んだのだけど,評判通りの変な小説だった.紙と鉛筆とサイコロでつくった架空の世界に没頭し,一喜一憂(というレベルではない)するヘンリーのボンクラ具合に「うわぁ……」と思うものの気持ちはよく分かる.今だとヘンリーみたいにゲームに熱中しすぎて日常がおぼつかなくなる50代独身のおっさんは珍しくないような気がしてしまうので,当時の読者と今回はじめて読む自分のような読者では感じ方がだいぶ違うのではないかな.面白かったです.