竹内雄紀 『オセロ●○』 (ハルキ文庫)

オセロ●〇 (ハルキ文庫 た 22-1)

オセロ●〇 (ハルキ文庫 た 22-1)

「何、これ?」
封筒を受け取りながら、聞いてみる。三十三年前も、私は確か同じセリフを口にした。
「言っとくけど……ラブレターじゃないぞ」
知っている。中の文面は、確かにラブレターからはほど遠い、ぶっきらぼうなものだった。三十三年経った今でも、覚えている。忘れることなど、できない。

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広告代理店に勤務する47歳の岸田信秀は,5月のある朝,33年前の自分の部屋で目を覚ました.他界した父親がまだ生きていて,中学生の体になっている.一方,14歳の中学生・岸田信秀は,目を覚ますと見たことのない部屋で中年の体に入っていることに気がついた.33年の時を越えて,一日置きに入れ替わるふたりの信秀の身にいったいなにが起ころうとしているのか.
タイトルが一部で話題になった『悠木まどかは神かもしれない』(感想)でデビューした作者の二作目.中年と中学生,ふたりの信秀の交互の語りで進んでゆく青春ミステリ.主人公がふたりのどちらに寄っているわけではなく,完全に並立して進むのは珍しい気がする.47歳の信秀は14歳の信秀に起こることを知っているのだけど,14歳の信秀は未来に起こることを知らない,という非対称がすごく効果的に物語をつくっているんだろうな.コミカルに描かれる33年のギャップにクスっとしていたら,現在(?)進行形の出来事が明らかになってゆき,徐々に不穏さを隠さなくなる.終盤の切なさとラストに涙腺が激しく揺さぶられてしまった.物語のキーのひとつに「後悔」があるのだけど,単純な「やり直し」の物語じゃないのよな.それにしても「悠木まどか〜」でもそうだったのだけど,学歴エリートな男子中学生の一人称が実にうざくて良いな! 大人も子供も,コミカルでうざいけど優しいキャラクターの描き方はすごく好きだな.主人公がふたりともモテすぎだろとか,過去/未来に適応するのが早すぎだろとか,都合のよいところがわりあい多いのが欠点かな.素晴らしいものでした.