法条遙 『バイロケーション』 (角川ホラー文庫)

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言い掛けて、けれど加納の表情を見てぞっとする。口が醜く裂け、目がどす黒く、頬が小刻みに振動していた。何かを強烈に憎んでいる顔。それは同時に、恐怖も表現していた。
……冗談ではないのだ。演技でこの顔が出来るとは思えない。あの会のメンバーは今まで、それこそ常識を逸脱した事態に何度も直面し、その度に恐怖して、結果辿り着いたのがこの貌。とても人間とは思えない奇妙に歪んだ、醜く野蛮な目の色。

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記憶を共有し,現れては消える,自分とまったく同一の存在,「バイロケーション」.「もう一人の自分であるバイロケーションを何とかする会」という怪しい会から勧誘を受けた忍は,どんどん奇妙な出来事に巻き込まれてゆく.
第17回日本ホラー小説大賞長編賞受賞のデビュー作.ホラー大賞と言いながらSFミステリでもあり,新人とは思えないリーダビリティの高さですいすいと読ませてくれる.デビュー作にはその後のすべてが詰まっている,とよくいうけれど,『リライト』(感想)や『404 Not Found』(感想)とモチーフの共通する部分はかなり多いのかな.「もう一人の自分」という存在がいかに不気味なものか,人生を狂わせるものであるか,すごい説得力を見せてくれるので,どんなことが起きても驚かないのだけど,何が起こるかもさっぱり予想できない.こんなハラハラすることがあるだろうか.救いのかけらもないラストには震えました.ちょう面白かったです.