矢部嵩 『〔少女庭国〕』 (ハヤカワSFコレクションJシリーズ)

「そうしよう」食事を終え、ナド子は頭を一生懸命回転させた。「羽田ロジさんに見せてあげるよ」
もつを飲み込みロジ子が瞬いた。「何を」
「広い世界だよ。ちゃちな功名心風で吹っ飛ぶような千年帝国の女王様にしてあげる」あけすけに振る舞い調子よく声でロジ子を殴ってみせた。口元の血も拭ってやった。「あなたの自己欲私が満たしてあげるから、その時はきっと笑ってよ。まるでもっと楽しそうに」
「プロポーズ?」二人を見ていた他の子たちが笑った。

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講堂へ続く狭い通路を歩いていた中三の少女は気が付くと暗い部屋に寝ていた.部屋は四角く石造りだった.部屋には二枚ドアがあり,うち一方には貼り紙がしてあった.
部屋にはひとりの閉じ込められた中三女子.扉を開ければ開けるだけ,中三女子は増えていく.最初のうちはなんじゃこりゃと思いながら読み進めていたのが,半分に差しかかるくらいからひっくり返るくらい楽しくなる.「中三女子」が「空間」で「共存」するという,帯の文句に嘘はないのだけど,予想もしなかった方向にかっ飛んでいくのよ.駕籠真太郎筒井康隆を足して2で割ったような感覚,と言えばおおよそ伝わっているに違いない.言葉の使い方が独特な地の文や会話文は好き嫌いが割れそうな気もする.物語の構造上ある程度は仕方ないのだけど,厚さの割りに冗長さを感じるのはマイナスだったかな.しかし読み終わってみると「こうしてセカイに百合が創造された」とか「ここが伊藤計劃以後がたどり着いた新たな地平だ」みたいな,心のないキャッチコピーがいくつも浮かぶね.まあひどい話ですわ.面白かったです.