山岸真編 『SFマガジン700【海外篇】 創刊700号記念アンソロジー』 (ハヤカワ文庫SF)

探検家よ、あなたがこれを読んでいるいま、わたしはとうの昔に死んでいるが、それでもわたしは、あなたに別れの言葉を贈ろう。存在するという奇跡についてじっくり考え、自分にそれができることを喜びたまえ。わたしにはそう伝える権利があると思う。なぜなら、いまこの言葉を刻みながら、わたし自身がおなじことをしているからだ。

息吹

記憶の在処を探るため,自分の脳を観察した科学者が見つけたものを描くテッド・チャン「息吹」がベストかな.短いなかにSFでしか描けないものを描き切っていると思う.次に好きなのが太陽から地球へ遭難した者の末路アーサー・C・クラーク「遭難者」と,上司に恵まれなかったために火星を滅ぼすことになってしまった男の悲劇ラリイ・ニーヴン「ホール・マン.化学汚染によって子供がまともに生まれなくなってしまった世界を簡潔に描くパオロ・バチガルピ「小さき供物」はいかにもバチガルピらしい夢も希望もない短篇.ジャック・ウィリアムスンの半生を追うバスツアーに成り行きで同行する男の話コニー・ウィリス「ポータルズ・ノンストップ」は良い意味でファンアート的な愛情が端々から感じられる楽しい一本.
その他の収録作はロバート・シェクリイ「危険の報酬」ジョージ・R・R・マーティン「夜明けとともに霧は沈み」ブルース・スターリング「江戸の花」ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「いっしょに生きよう」イアン・マクドナルド「耳を澄まして」グレッグ・イーガン対称(シンメトリー)アーシュラ・K・ル・グィン「孤独」.当たり前だけど,どの作品から切り取ってもベスト級ばかり.とりあえず作家の名前に覚えがあれば他も読んでみればいいし,SFに限らずなんか良い短篇集が読みたいなという気分になったら手に取って損はないと思うわけさ.楽しゅうございました.