石川博品 『四人制姉妹百合物帳』

もしそうであったなら、実可子はおろか、紗智も有希奈も多恵も、句美子でさえも「お姉ちゃま」になっていただろう。姉妹という関係は危うい偶然の上に成り立っている。別々に生まれた四人が姉妹となる確率は、海に投じた時計の部品が波や潮に運ばれ組み合わさって時計として動き出すそれに等しい。海の底で動くところを見る者が魚しかいなくても、時計は時計、姉妹は姉妹、ひと続きの時を刻む。

COMIC ZIN 通信販売/商品詳細 四人制姉妹百合物帳

閖村学園高校は小中高一貫の女子校.利用者のいない図書館に作られたサロン,「百合種(ユリシーズ)」には四人の姉妹が集まり,日々を送っていた.
「サロンへの径」「百合種の顰」「閖村三十人剃毛」「湯煙の中の風景」「卒業と日常」.ある女子高のサロンに集まった四人姉妹の一年間を5篇で描く連作短編集.と書くといかにも百合っぽいし,タイトルも「百合物帳」だし,あらすじに一片の嘘もないのに,読んでみると腰を抜かす.なんといっても,百合と並んで全体のテーマとなっているのが下の毛の剃毛.なぜ剃毛なのか,という疑問も,それほど下品さもなく(感じ方に個人差はありそう),あまりにあっけらかんと,たっぷりのユーモアを交えつつ描かれる剃毛を前にして霞んでゆく.特に無毛による革命を目指す「閖村三十人剃毛」のくだらなさが素晴らしかった.素晴らしくくだらないのに,美しい百合ものでもある.この独特の感覚を描ききれるひとはそうはいないはず.取扱店舗が限られているのが難だけど,ぜひ手に取ってみるといいと思うよ.