夏海公司 『セピア×セパレート 復活停止』 (電撃文庫)

「気になること? うん、まぁそうだな。今の君の状況を鑑みると、大した話じゃないかもしれないけど」

振り向きながら、コンソールをさらしてくる。

「この子、人間じゃないぞ」

記憶のクラウドバックアップと3Dバイオプリンターの発達によって、生命の復元が可能になった2030年代。テック企業で働くエンジニアの園晴壱は、仕事帰りに異動の辞令を受けた直後、意識を失う。バックアップから復元され目を覚ました晴壱は、本来あるはずの死亡直前の記憶を喪失していた。時を同じくして、全人類のバックアップをロックするという前代未聞の大規模テロが発生し、その主犯として晴壱が指名手配される。

覚えのない死から「復元」されたエンジニアは、身に覚えのないテロ容疑を晴らすため自らの死の理由を探る。最っ高に楽しかった。現代と地続きのスマートデバイスを使っていたプロローグから、3Dバイオプリンターというとんでもない技術に一足飛びに飛躍し、果ては数十億年スケールの、現代SFをすべて盛り込んだ物語へと、とんでもない発展を遂げる。

近未来と呼ぶにはオーバーテクノロジーがすぎる2030年代も、すべての人物の行動原理も説明可能なところも、それでいて非常に読みやすいSFエンターテインメントでありテクノスリラーであるところも、全部良かった。もし他のSF作家が同じテーマを扱ったら、ぜんぜん違う結論が出るんだろうな、と想像できるところもまた良い。今年のベストSFの一冊だと断言できる傑作でした。