田中空 『未来経過観測員』 (KADOKAWA)

「何も感じなくなるから……辛くないってこと?」

「まぁ、そうですね……ただ……」ロエイは少し言いよどんだ。

「スイッチを復帰させた時に、まとめてやって来ますけどね」ロエイの声は寂しそうに笑った。

私はモノアイをぼんやりと光らせているロエイを見つめ、自分だけがタイムトラベルするかのように眠るのは、実はとんでもない大罪なのではないかと思ったが、次の瞬間、強烈な睡魔に引きずり込まれ、百年後の未来に旅立った。

表題作は、超長期睡眠から百年ごとに覚醒し、五万年先まで未来を定点観測することを義務付けられた「未来経過観測員」のレポート。爆発的技術発展を遂げた人類と宇宙の行く末を、ひとりの未来経過観測員の目から描いてゆく。たったひとりの観測員の抱えた冷たい孤独に、ロマンとセンチメンタル。SFに必要なものをすべて詰め込んだエンターテイメント。むちゃくちゃ良かった

持続可能社会が崩壊し、ボディーアーマーの中で暮らすことを余儀なくされる世界で、アキノは夏目漱石を読む少女と出会う。書き下ろし併録の短編、「ボディーアーマーと夏目漱石」もめちゃくちゃ良かった。26ページほどなのに強烈に記憶に残る。二作ともそれぞれに違った形の結末があれども、しんと冴えわたる「孤独」の空気が強く印象に残る。中編一つに短編一つ、いずれも甲乙つけがたい傑作でした。