新八角 『滅びの季節に《花》と《獣》は 〈上〉』 (電撃文庫)

滅びの季節に《花》と《獣》は  〈上〉 (電撃文庫)

滅びの季節に《花》と《獣》は 〈上〉 (電撃文庫)

「そもそも分からないのは、お前は結局何者として愛されたいのかって話だ。人間のガファルとして愛されたいのか? それとも、《大獣》の《貪食の君》として愛されたいのか?」

花の街スラガヤ.《地胚》がもたらす奇蹟の下,貴族と奴隷,そして《大獣》が暮らすこの街は滅びが近づいていた.ある時,売れ残りの奴隷の少女と,人間に憧れる《大獣》が恋に落ちる.

デビュー作「血翼王亡命譚」(感想)に引き続きファンタジーとなる二作目.導入は初々しいすれ違いの初恋物語.今回はえらいかわいらしい話だな,と思って読んでいたら,やっぱりそれだけでは終わらなかった.

王道のファンタジーを,舞台の面白さと物語を埋め尽くさんばかりのガジェットの組み合わせで支えるという構図は同じと言っていいかな.三百年に渡る街の興りと発展,それを支える奇蹟と身分制度というシステム,すべてを食い尽くさんと現れる天災である《天子》のサイクルは想像の余地も大きくて楽しい.それと,三百年を生きてすべてを諦めてしまった支配者と,それを良しとせず抗う少女の対比.下巻は4月発売とのことで,楽しみにお待ちしております.

岩波零 『ゴミ箱から失礼いたします 2』 (MF文庫J)

ゴミ箱から失礼いたします 2 (MF文庫J)

ゴミ箱から失礼いたします 2 (MF文庫J)

「ふざけないでよ……。変な状況だけど、一応恋の告白をしたんだから。しかも生まれて初めての……」

「…………」

初めての告白がこれって、なんか彩音、物凄く可哀相だ。

ゴミ箱の中に入っていないとゴミ箱になってしまうという「妖怪ゴミ箱男」になってしまった小山萌太.なんとか人間に戻ることができた萌太だったが,ある朝目が覚めると再びゴミ箱になっていた.これは一体.

妖怪もの,とは言ってもいわゆる一般的な妖怪ものとは一線を画す印象のあるラブコメ二巻.やっていることはドタバタしているわりに,語り口はかなり落ち着いていて妙なギャップがある.女の子たちもそれぞれにキャラが立っていて可愛いと思う.特に幼なじみの彩音.幼なじみがなかなか報われないのはこの世界の常とはいえ,引用した部分をはじめ,これほどの不憫っぷりを見せる幼なじみは今までに読んだことがない.だいぶ長いこと積んでしまったけど,続きも読んでみたくなりました.

古橋秀之 『百万光年のちょっと先』 (集英社)

百万光年のちょっと先 (JUMP j BOOKS)

百万光年のちょっと先 (JUMP j BOOKS)

そんな折り、最後の最後にこの場を訪れたのは、ひとりの名高い猫捕り名人でした。人間原理と独我論の達人であるこの名人が「我思うゆえに万物あり」という強固な信念の下にはったとにらみつけるや、不確定的存在と化した猫はその可能性の尻尾をがっちりと握られ、捕らえられてしまうというのです。その仕事の成功率は一〇〇パーセント。一度たりともし損じたことはないとのこと。

2005年から2011年に連載された古橋秀之のSFを集めた短編集.坊ちゃまを寝かしつけるための,自動家政婦が語って聞かせる物語という体を取っており,収録作品はだいたい7~8ページの短篇が48本.SFのショートショートにありがちな意地の悪い話は少なめ.いかにも少し不思議な話もあり,ハードSFを取り込んだ壮大なほら話あり.どこか優しい,童話のようなちょっととんちと皮肉が効いた話が多いかな.「卵を割らなきゃオムレツは」「船に恋するクジラ」「地上に降りていったサル」「四次元竜と鍛冶屋の弟子」「パンを踏んで空を飛んだ娘」「指折り数えて」「絵と歌と、動かぬ巨人」といったあたりが個人的に好み.坊ちゃまのような子供にも,SFショートショートを読んで育った大人にも楽しい短編集だと思います.

藻野多摩夫 『できそこないのフェアリーテイル』 (電撃文庫)

できそこないのフェアリーテイル (電撃文庫)

できそこないのフェアリーテイル (電撃文庫)

「きっとあなたには理解できない。私たちにとって、愛とは簒奪と束縛と同じ意味だから」

妖精に春が盗まれたといわれる常冬の町,ベン・ネヴィス.この灰色の町でひとり暮らしていた少年ウィルは,雪の中でたたずむ少女,ビビと出会う.妖精と対話できる「フェアリーテイル」であるというビビは,妖精に盗まれた大切なものを取り戻すため,この町を訪れたという.

それぞれが失った「大切なもの」を取り戻すために,少年と少女が旅に出る.シェイクスピアをモデルにした主人公から語られる,愛をめぐる物語.ドルリー・レーン王立劇場やストラトフォード,ホームズとワトソンみたいな二人組も出てくるよ.

人間と妖精の叶わぬ悲恋を,「真夏の夜の夢」をモデルにした戯曲「夏夜ヴァルプルギスの囁き」を下敷きにして語ってゆく.妖精にとっての愛と,人間にとっての愛のすれ違いがなんとも切ない.原典に忠実なだけではなく,妖精の持つ奔放さ,神秘性,不気味さをしっかりと描いているのが良いと思う.ともすればどんどん重くなりそうな物語のなかで,天真爛漫なヒロインのビビがとてもまぶしく,物語自体が希望のあるものになっていたように思う.とても良いファンタジーだと思います.

長谷敏司 『ストライクフォール3』 (ガガガ文庫)

ストライクフォール3 (ガガガ文庫)

ストライクフォール3 (ガガガ文庫)

「これが成立した場合、ケイトリンに備えはあるのか?」

冷や汗をこめかみに浮かべるエイジェイの問いに、クリクリが即座に返す。

「あるわけないでしょ。うまくいくんなら、宇宙戦闘の歴史が、本気で土台から全部ひっくり返るんだよ。対策してるチームなんて、宇宙にたぶん一つもないよ」

シーズンオフを迎え,シルバーハンズは来シーズンへ向けての強化キャンプに突入した.慣性制御を取り入れた,新たな戦術を模索するチームメンバーたち.そんな中,初めて参加する一軍キャンプに雄星は翻弄される.

新しい技術の登場によって,ゲームがパラダイムシフトする過程を描くシリーズ三巻.慣性制御が登場してから半年.ゲームのスピードが大きく変わり,新しいポジションが生まれる.それに応じて,今まで成功していた古い戦術の延長を取るか,それを捨ててまったく新しい戦術を作るか.さらにはその技術が良くも悪くも社会を変えてゆく.世界が変わっていく様を,フィールドの内と外のそれぞれから描いてゆくという,SFでなければ書けないプロスポーツ小説の新しい傑作だと思う.今回は一軍メンバーが話の中心になるためか,プロスポーツチームなのに国籍も性別も年齢もバラバラで,それなのにそれぞれ役割があることがはっきりするのがいいなと思う.とりあえず今からでも追いかけておいたほうが良いのではないでしょうか.