朝倉ユキト 『ノーウェアマン』 (星海社FICTIONS)

ノーウェアマン (星海社FICTIONS)

ノーウェアマン (星海社FICTIONS)

「この病に侵された者は、他人の記憶の中に残ることができなくなる。社会的に見れば、「存在しない人間」になるといっても良い。これらの特徴的な症状から、私はこの病気をこう名付けた。「ノーウェアマン症候群」とね」

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北海道で塾講師をしながら,充実した生活を送っていた翼.しかし,彼の日常はある時を境に一変する.愛犬に突如噛まれ,職場では腫れ物扱いされ,プロポーズをした恋人からは存在を忘れられる.その原因は,出会った人物の記憶を忘却させてしまうノーウェアマン症候群だという.

誰からも忘れられ,社会的に透明になってしまった男の悲劇と小さな希望.第16回星海社FICTIONS新人賞受賞作.原因がわからないまま,少しずつおかしくなっていく日常の描写は不気味でとても良い.冒頭から物語に引き込まれる.のだけど,原因が明らかになってからはだんだんと印象がトンチキになっていく.悲劇的な出来事がトントン拍子で進んでいくというのかなあ.並行して描かれる連続殺人鬼こと,「不死身の男」の手がかりが明かされるくだりにはずっこけた.もうちょいなんとかならなかったのかと.

「忘れられる」ことの悲しさはしっかりと表現しているし,独特の緊張感に裏付けられた語りは悪くない.嫌いではないんだけど,良い意味でも悪い意味でも変な小説だと思う.

冲方丁 『マルドゥック・アノニマス 2』 (ハヤカワ文庫JA)

人間が群をなすと、そこに独自の善悪の基準をもうけるようになる。ルールができあがってゆく。そのルールの外にいる者を、人間とみなさなくなる。それまで敵意が生まれるはずのなかった場所に、強迫と強奪がまかり通る。そしてその頃には、群を成り立たせる欺瞞は、不可侵にして聖なるものとして扱われるようになる。なんぴとともそれを覆せず、疑念を呈する者は、勢力の敵とみなされる。やがてその疑念が一つまた一つと忘れ去られ、新世代にとっては生まれたときからの常識となったとき――勢力は社会とのものとなる。

そうやって人間は、繰り返し繰り返し、社会を作り変えてきたんだ。

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サムの遺志を継ぎ,〈クインテット〉への潜入捜査を続けるウフコック.〈クインテット〉のリーダー,ハンターがアンダーグラウンドで勢力を伸ばしていくことを,ウフコックはただ見ることしかできなかった.

均一化(イコライズ)」という思想を胸に,知恵と暴力で都市を制圧してゆくハンターの手管をひたすらなぞっていく.ピカレスクロマンというのかな.実質的なこの巻の主人公ハンターと,傍観することしかできないウフコックの歯がゆさと無力さの対比が凄まじいことになっている.これが導入の場面にどうつながっていくのか.まだまださっぱりわからない.また間が空いているようだけど,楽しみにしております.

旭蓑雄 『レターズ/ヴァニシング 書き忘れられた存在』 (電撃文庫)

すべての意識を閲覧し終えた私の意識は、次いで文字に囲まれた領域に存在していた。文字群の中心には石柱状の物体。私はこの光景とよく似た場所を知っていた。

火星だ。モノリスと、バベルの図書館である。

私が先に示した“世界と人間は同じ構造をしている”という結論は、正にこのとき得られた。直観的に、私はここが意志領域であることを悟った。後天的に得られる記憶情報が集う領域などとは違う、存在が始まったとき既に、各々が持ち合わせている不思議な領域。存在を、存在たらしめる場所。

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この世界のすべての事象は文字=世界言語で記された情報にすぎない.“世界言語”が発見され,技術の発達した現代.世界言語の権威である祖父から「沈黙の文字」を託された虎風,神に書き忘れられた少女ナノカ,人間を構成する“文字”を歪めることのできる少女鵬珠.三人の運命が混ざり合い,やがて世界は書き換えられる.

第20回電撃小説大賞応募作(未受賞).“世界言語”の存在が確認され,火星上ではブラック・モノリスと“バベルの図書館”が発見された.世界言語の基本ルールである魔法一条.形而上の世界言語(Meta-Physical World Language).言語によって人為的に進化する人類.帯でわざわざ「スペキュレイティブ・ノベル」を名乗るだけあって,非常に意欲を感じる.様々な分野に渡るアイデアが詰め込まれているため,テーマはごちゃっとしているけど,書くべきところと書かなくていいところはしっかり弁えている.思った以上に読みやすい.楽しゅうございました.しかしなんでこれを電撃に送ろうと思ったのか.

水沢夢 『俺、ツインテールになります。13』 (ガガガ文庫)

「あたしのツインテール滅び(ほどけ)ない……大切な人が結んでくれたものだから!!」

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戦女神ヴァルキリアギルディの能力により,これまで倒したすべてのエレメリアンたちが復活.ツインテイルズへと波状攻撃を仕掛けてくる.そんな中,テイルブルーこと愛香は己のツインテールへの不安から,戦う力を失おうとしていた.

シリーズ13巻.復活怪人たちとの再戦.ライバルとの,そしてかつて倒した敵との共闘.恐怖心から戦えなくなる仲間とその復活.そして愛.特撮というか,ヒーローものに大切なものがすべて詰め込まれていた.ベタなヒーローもののシチュエーションを,これだけ熱くまっすぐ描けるのも好きだからこそ,なんだろうなあ.13巻もあるので,シリーズのなかで正直かったるいところも多いっちゃ多かったのだけど,それがぜんぶ報われるかのようなカタルシスがあった.

牧野圭祐 『月とライカと吸血姫2』 (ガガガ文庫)

《史上初の宇宙飛行士に、人類の勝利に、盛大な拍手を!》

街中が割れ返るような拍手に包まれる中で、イリナは異様な孤独に突き落とされた。

――私は、何なの?

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ノスフェラトゥ計画」を成功させたレフは,宇宙飛行士候補生に復帰を許される.秘密主義が徹底された共和国体制の下,「人類最初の宇宙飛行士」を目指して訓練に明け暮れるレフ.一方で,計画の「実験体」だったイリナには不穏な影が忍び寄っていた.

宇宙開発競争の影に隠された歴史,あるいは吸血鬼の少女と人類の英雄になった宇宙飛行士の物語.前回で宇宙に行けたのに,同じテーマで何をやるんだろうと思いながら読みはじめた.実際,ツィルニトラ共和国連邦の秘密主義だったり,その下での厳しい訓練だったり,大まかに描かれることはほぼそのままではある.先行きのまったく見えない日々.ひとつの計画が終わり,別々になったふたり.事実が隠されたまま,「人類最初の宇宙飛行士」になってしまったレフの葛藤.驚くような何かがあるわけではないんだけど,ひとつひとつの出来事を,とても丁寧に積み重ねてドラマを作っている.それだけならそれなり……,だったんだけど,クライマックスの転換が見事で印象が変わった.これも,想像できないラストではないんだけど,秘密主義国家という舞台を活かした,これ以上ない鮮やかなものだったと思う.良いものでした.