長谷敏司 『ストライクフォール2』 (ガガガ文庫)

「これからあんたは、あらん限りの罵声を受けるかもしれないね。あんたを待つものは、賞賛よりも、むしろ厳しい運命だろう。そうとも。あんたが拍手を受けることはしばらくないだろうから、あんたの――鷹森雄星のために、あたしがそうしよう。あんたは世界を変えたのさ」

Amazon CAPTCHA

すべてがうまくいくわけではないことが、楽しくてたまらなかった。困難すらもが、真っ白なキャンパスに絵を描いてゆくような喜びにあふれていたからだ。

Amazon CAPTCHA

前代未聞のルール違反により,鷹森雄星は渦中の人となった.協議が重ねられた結果,シルバーハンズに入団することになった雄星だったが,チームメイトからの扱いは冷たい.

代理戦争として生まれたスポーツと,戦争の決定的な違いについて.一巻は『タッチ』っぽかったけど,今回はどこかガンダムっぽいかもしれない.代理戦争を書いた作品はなんだかんだと多いけど,そのバックボーンや重要性をこれほどシンプルに説明している作品はそう多くないはず.

例えばサッカーや将棋なんかで味わえるような,リアルタイムで戦術が進化していく場に立ち会うことの面白さや興奮が文面から伝わってくる.新しい技術が,スポーツそのものを進化させ,さらには世界そのものを進化させる.SFのプリミティブな醍醐味が,良い意味でシンプルなエンターテイメントとして描かれている.とても良い.これはひょっとしてすごいシリーズになるのではないか,と思わせられた二巻でした.

古川春秋 『エンドロール』 (星海社FICTIONS)

エンドロール (星海社FICTIONS)

エンドロール (星海社FICTIONS)

近所の焼肉屋に入り、特上のロースとカルビだけを頼み、大ライスを頬張った。それに生ビール一杯を空けると、もうお腹いっぱいになった。

時間を潰すために一度家に戻る。満腹でソファに腰掛けていると、いつの間にか寝入ってしまっていた。

起きた時にはすでに日付が変わっていた。

さあ、死のう。

Amazon CAPTCHA

現状に不満はないが未来には不安がある.特に死にたいわけではないが生きている理由もない.清掃会社に勤める秋吉浩平は,ただなんとなく死んでみることにした.死ぬからには,やるべきことをやりたい.1ヶ月後の誕生日に自殺することに決めた秋吉青年は,10項目のリストを作ってその日までひとつずつ埋めていくことにする.

「死ぬ理由がないが,それ以上に生きる理由がない」という青年が死ぬまでにやり遂げたい10の出来事.ガチャを貯金の許す限り回すだとか,いい肉を腹いっぱい食べるだとか,小さくて身近な欲望を,淡々とこなしていくさまを描いていくという.自分で決めた死を前にした小説だけど,ヤケクソではなく,いわゆる人生やり直しともだいぶ違う.なんとも不思議なテンションが一貫している.ご都合主義的な部分もかなりあるけど,そのぶん気楽に読めるというところもあるのかな.

朝倉ユキト 『ノーウェアマン』 (星海社FICTIONS)

ノーウェアマン (星海社FICTIONS)

ノーウェアマン (星海社FICTIONS)

「この病に侵された者は、他人の記憶の中に残ることができなくなる。社会的に見れば、「存在しない人間」になるといっても良い。これらの特徴的な症状から、私はこの病気をこう名付けた。「ノーウェアマン症候群」とね」

Amazon CAPTCHA

北海道で塾講師をしながら,充実した生活を送っていた翼.しかし,彼の日常はある時を境に一変する.愛犬に突如噛まれ,職場では腫れ物扱いされ,プロポーズをした恋人からは存在を忘れられる.その原因は,出会った人物の記憶を忘却させてしまうノーウェアマン症候群だという.

誰からも忘れられ,社会的に透明になってしまった男の悲劇と小さな希望.第16回星海社FICTIONS新人賞受賞作.原因がわからないまま,少しずつおかしくなっていく日常の描写は不気味でとても良い.冒頭から物語に引き込まれる.のだけど,原因が明らかになってからはだんだんと印象がトンチキになっていく.悲劇的な出来事がトントン拍子で進んでいくというのかなあ.並行して描かれる連続殺人鬼こと,「不死身の男」の手がかりが明かされるくだりにはずっこけた.もうちょいなんとかならなかったのかと.

「忘れられる」ことの悲しさはしっかりと表現しているし,独特の緊張感に裏付けられた語りは悪くない.嫌いではないんだけど,良い意味でも悪い意味でも変な小説だと思う.

冲方丁 『マルドゥック・アノニマス 2』 (ハヤカワ文庫JA)

人間が群をなすと、そこに独自の善悪の基準をもうけるようになる。ルールができあがってゆく。そのルールの外にいる者を、人間とみなさなくなる。それまで敵意が生まれるはずのなかった場所に、強迫と強奪がまかり通る。そしてその頃には、群を成り立たせる欺瞞は、不可侵にして聖なるものとして扱われるようになる。なんぴとともそれを覆せず、疑念を呈する者は、勢力の敵とみなされる。やがてその疑念が一つまた一つと忘れ去られ、新世代にとっては生まれたときからの常識となったとき――勢力は社会とのものとなる。

そうやって人間は、繰り返し繰り返し、社会を作り変えてきたんだ。

Amazon CAPTCHA

サムの遺志を継ぎ,〈クインテット〉への潜入捜査を続けるウフコック.〈クインテット〉のリーダー,ハンターがアンダーグラウンドで勢力を伸ばしていくことを,ウフコックはただ見ることしかできなかった.

均一化(イコライズ)」という思想を胸に,知恵と暴力で都市を制圧してゆくハンターの手管をひたすらなぞっていく.ピカレスクロマンというのかな.実質的なこの巻の主人公ハンターと,傍観することしかできないウフコックの歯がゆさと無力さの対比が凄まじいことになっている.これが導入の場面にどうつながっていくのか.まだまださっぱりわからない.また間が空いているようだけど,楽しみにしております.

旭蓑雄 『レターズ/ヴァニシング 書き忘れられた存在』 (電撃文庫)

すべての意識を閲覧し終えた私の意識は、次いで文字に囲まれた領域に存在していた。文字群の中心には石柱状の物体。私はこの光景とよく似た場所を知っていた。

火星だ。モノリスと、バベルの図書館である。

私が先に示した“世界と人間は同じ構造をしている”という結論は、正にこのとき得られた。直観的に、私はここが意志領域であることを悟った。後天的に得られる記憶情報が集う領域などとは違う、存在が始まったとき既に、各々が持ち合わせている不思議な領域。存在を、存在たらしめる場所。

Amazon CAPTCHA

この世界のすべての事象は文字=世界言語で記された情報にすぎない.“世界言語”が発見され,技術の発達した現代.世界言語の権威である祖父から「沈黙の文字」を託された虎風,神に書き忘れられた少女ナノカ,人間を構成する“文字”を歪めることのできる少女鵬珠.三人の運命が混ざり合い,やがて世界は書き換えられる.

第20回電撃小説大賞応募作(未受賞).“世界言語”の存在が確認され,火星上ではブラック・モノリスと“バベルの図書館”が発見された.世界言語の基本ルールである魔法一条.形而上の世界言語(Meta-Physical World Language).言語によって人為的に進化する人類.帯でわざわざ「スペキュレイティブ・ノベル」を名乗るだけあって,非常に意欲を感じる.様々な分野に渡るアイデアが詰め込まれているため,テーマはごちゃっとしているけど,書くべきところと書かなくていいところはしっかり弁えている.思った以上に読みやすい.楽しゅうございました.しかしなんでこれを電撃に送ろうと思ったのか.