水沢夢 『俺、ツインテールになります。13』 (ガガガ文庫)

「あたしのツインテール滅び(ほどけ)ない……大切な人が結んでくれたものだから!!」

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戦女神ヴァルキリアギルディの能力により,これまで倒したすべてのエレメリアンたちが復活.ツインテイルズへと波状攻撃を仕掛けてくる.そんな中,テイルブルーこと愛香は己のツインテールへの不安から,戦う力を失おうとしていた.

シリーズ13巻.復活怪人たちとの再戦.ライバルとの,そしてかつて倒した敵との共闘.恐怖心から戦えなくなる仲間とその復活.そして愛.特撮というか,ヒーローものに大切なものがすべて詰め込まれていた.ベタなヒーローもののシチュエーションを,これだけ熱くまっすぐ描けるのも好きだからこそ,なんだろうなあ.13巻もあるので,シリーズのなかで正直かったるいところも多いっちゃ多かったのだけど,それがぜんぶ報われるかのようなカタルシスがあった.

牧野圭祐 『月とライカと吸血姫2』 (ガガガ文庫)

《史上初の宇宙飛行士に、人類の勝利に、盛大な拍手を!》

街中が割れ返るような拍手に包まれる中で、イリナは異様な孤独に突き落とされた。

――私は、何なの?

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ノスフェラトゥ計画」を成功させたレフは,宇宙飛行士候補生に復帰を許される.秘密主義が徹底された共和国体制の下,「人類最初の宇宙飛行士」を目指して訓練に明け暮れるレフ.一方で,計画の「実験体」だったイリナには不穏な影が忍び寄っていた.

宇宙開発競争の影に隠された歴史,あるいは吸血鬼の少女と人類の英雄になった宇宙飛行士の物語.前回で宇宙に行けたのに,同じテーマで何をやるんだろうと思いながら読みはじめた.実際,ツィルニトラ共和国連邦の秘密主義だったり,その下での厳しい訓練だったり,大まかに描かれることはほぼそのままではある.先行きのまったく見えない日々.ひとつの計画が終わり,別々になったふたり.事実が隠されたまま,「人類最初の宇宙飛行士」になってしまったレフの葛藤.驚くような何かがあるわけではないんだけど,ひとつひとつの出来事を,とても丁寧に積み重ねてドラマを作っている.それだけならそれなり……,だったんだけど,クライマックスの転換が見事で印象が変わった.これも,想像できないラストではないんだけど,秘密主義国家という舞台を活かした,これ以上ない鮮やかなものだったと思う.良いものでした.

岡本タクヤ 『異世界修学旅行6』 (ガガガ文庫)

異世界修学旅行 6 (ガガガ文庫)

異世界修学旅行 6 (ガガガ文庫)

「魔王は、人間に興味があるのかもしれません」

「ほう?」

「人は何故過去に留まらず、前に進もうとするのか。その答えが知りたいのかもしれません。だからこそ、甘やかな過去を見せて人を誘惑する」

「ふむ」

「……仮説ですが」

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異世界に飛ばされた仲間を探して修学旅行中の沢木たちは,とうとう魔王城(魔王討伐済み)にたどり着く.しかし,城に足を踏み入れた面々を待ち受けていたのは,制服姿のプリシラと,入学式の日の幻だった.

修学旅行「前」のクラスの様子が明らかになる第六巻.明らかにおかしなシチュエーションを舞台にしながら,これまでになく素直で良い青春ものになっているのが面白い.シリーズでここまでやってきたギャグと楽屋落ちが,しっかりキャラクターを活かすための土台になっていたことがわかる.ベタと言っちゃえばベタだけど,これだけのテキストで学校の雰囲気を出せるのはすごい,というかやはりうまい.修学旅行もそろそろ終わりが近い雰囲気.追えば追うだけ味の出るシリーズだと思うし,皆も読んでみるといい.

小川哲 『ゲームの王国』 (早川書房)

ゲームの王国 上

ゲームの王国 上

ゲームの王国 下

ゲームの王国 下

革命により、オンカーは有史以来、人類を長らく悩ませていた問題のいくつかを完全に解決した。借金苦による自殺、詐欺、汚職、賄賂、泥棒、強盗。すべてなくなった。綺麗さっぱり完全に消滅した。

どうしてそんなことが可能だったのか。答えは「私財がなくなったから」だ。まず貨幣という概念がなくなった。すると人々が物々交換を始めたので、これも禁止した。私有や財産が存在しない社会なのだ。こうしてパンドラの箱以来あった種々の犯罪のうち、約半分が一瞬にして消え去った。もちろん、犯罪とともに自由、愛、家族、その他諸々の概念も消失した。

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1975年のカンボジアクメール・ルージュによって首都が陥落した夜に,後にポル・ポトと名乗ることになるサロル・サルの隠し子ソリヤと,寒村で生まれた神童ムイタックがプノンペンで出会う.

不条理で滅茶苦茶なルールのもと,革命と虐殺と恐怖政治が進むカンボジアを描く上巻と,その50年後,復讐と「ゲームの王国」の実現を描く下巻からなるハヤカワSFコンテスト受賞後第一作.弾圧と虐殺の緊張感と,マジックリアリズム的なユーモアが両立した不思議な群像劇の語りが,現実と幻想の間にある奇妙な時代を浮かび上がらせていた,のだと思う.

いわゆる「伊藤計劃以後」の作品であり(もともとは「伊藤計劃トリビュート2」の収録作),問題意識が似通っているところもあるためか,読後感に新鮮みは薄いかもしれない.しかし,人生や社会をルールのあるゲームに例えた小説はいくつもある(最近は特に多い気がしている)なか,このアプローチでこれだけの大作かつ力作はそうはない.良いものでした.

屋久ユウキ 『弱キャラ友崎くん Lv.4』 (ガガガ文庫)

けどまあやっぱり昨日も思ったとおり、誰も不幸にならずみんな笑顔で、温かい空気に包まれたままこのイベントが終わり、これからもいつもどおりの日常が続いていく。なんて素晴らしいハッピーエンドなのだろうか――

――なんてほど甘くないのがこの『人生』というゲームなのだと、俺はこのあとすぐに知ることになる。

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夏休みが終わり2学期が始まった.日南から出された次の課題は,球技大会にやる気のないクラスのボス格の女子に,やる気を出させることだった.

やりたいことをやることにした友崎と,ただひたすら合理的に前を向く日南.考え方は違うけど,じゃあ人生ってどう生きるのがいいのよ,みたいな青春の葛藤を描く人生攻略ラブコメ第四巻.ふたりの姿を対照的に浮かび上がらせながら,ひとつのハッピーエンドと,その後の新しい出来事を描いてゆく.いかにもな学園ラブコメのフォーマットの上に,もう一枚のレイヤーが乗っている感じと言うのかな.観察して考えて努力した結果どうなったか,の因果関係をしっかり描いているのはやっぱ好感が持てるし,それだけで終わらせないのも良い.コスパの良い努力を積み重ねて,大きな結果をつかむのが結局は近道なんだけど,人生はハッピーエンドの後も続くのだ.後半,というかラストはかなり意外な展開だったのだけどどうなるんだろう.楽しみにしております.